多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

乗代雄介『皆のあらばしり』

[この番組の画像一覧を見る]

★内容紹介
・舞台は栃木県栃木市の皆川地区(実在の場所)。物語の語り手は高校2年生の「ぼく」。「ぼく」は高校で歴史研究部に入っており、その研究のために皆川城址を訪れていた。するとそこに30代くらいの男性がやってくる。出張中で城址を見に来たというその男は「ぼく」が歴史を調べているというと、歴史についていろいろ語ってくれた。地元の人でもないのにその知識量はすごく、「ぼく」は圧倒される。ただ、その話し方も内容もどうも胡散臭く、
歴史の情報以外はどこまで信用できるのかわからない。
・「ぼく」は調査のために、地元の旧家の古い蔵書目録を入手していたが、それをみた男は俄然興味を示す。その目録の中に、幕末の有名な国学者の本が2冊載っていたが、そのうち1冊『皆のあらばしり』という本は、記録にないという。つまり未発見の資料である可能性がある。と同時に、偽書である可能性もある。
・これが本物で新発見ならぜひ見てみたい。男だけでなく「ぼく」もそう思う。たまたま、「ぼく」と同じクラブの後輩がその旧家の娘なので、彼女に頼めば──というが、男は、彼女から情報を引き出すのはいいが、この本のことは言ってはならないと言う。胡散臭さは感じるものの、男の博識に惹かれていた「ぼく」は彼とともに秘密の調査を始めた。果たして『皆のあらばしり』は本物なのか。なぜ栃木の旧家にそんなものがあるのか。なぜ、持ち主に内緒で調べなくてはならないのか。そしてその本を手にすることはできるのか?
★読みどころ1)エンタメ度が高く、純文学の「ハードルの高さ」がない。
純文学というと小難しいイメージを持っている人もいるかもしれないが、本書はテンポのいい会話で構成され、しかも「男」は大阪弁を使うこともあり、エピソードもユーモラスでとても楽しく読める。また、前述のようなミステリ的興味で読者を引っ張るので、物語に入りやすい。しかもテーマが栃木市皆川地区の幕末の歴史で、天狗党の乱があったとき、この地区はどうだったかといったようなマニアックな情報も紹介され、どの土地にも、その土地の歴史があるんだなあということを感じさせてくれる。
★読みどころ2)最後に待つどんでん返し
そのまま、新発見の本は見つかるのかという部分に興味を持って読んでいくと、最後に思わぬ足払いをかけられる。このどんでん返しが曲者。もしかしたらこのどんでん返しが何を意味しているのか、このどんでん返しによって物語がどう変わるのかは、最初はぴんと来ないかもしれない。でも作者の企みに気づくと、人生の皮肉やおかしみといったものがじわじわと立ち上ってくる。
・芥川賞をとるかどうかはわからないが、ぜひこの世界を味わってほしい一冊。
乗代雄介『皆のあらばしり』
新潮社から1650円で販売中です。
関連記事

あなたにオススメ

番組最新情報