多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

君嶋彼方『君の顔では泣けない』

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★内容紹介
・主人公は30歳の水村まなみ。彼女には夫と小さな娘がいる。そんなまなみには年一回の恒例行事がある。7月の第三土曜日に実家に戻り、高校時代の同級生だった坂平陸と会うのだ。実はまなみと陸は、高校一年の夏、おそらく一緒にプールに落ちたのがきっかけで翌朝、ふたりの中身が入れ替わってしまった。いつか元に戻ると信じて、入れ替わったことはふたりだけの秘密にしていたが、それから15年経った今も入れ替わったまま。つまり坂平陸は15歳で水村まなみの体の中に入ったまま、大学に進み、就職し、結婚、出産という人生の転機を経験してきた。
・物語は、現在のふたりの様子と、15歳のときに体が入れ替わってからのこれまでが交互に綴られる。
★読みどころ1)SFラブコメの定番である男女入れ替わりをリアルに描く。
・男女入れ替わりものはだいたい恋愛が絡んだり、女性の体の中に入った男子がとりあえずドキドキしながら自分の体を見てみたりする。でも、実際にこんな入れ替わりが起きたらどうか?そんな体への興味がどうこうより前にパニックになるのでは?
・ふたりは情報交換をし、家族のことや仲のいい友人のことなどを伝えあって、とにかく周囲に気づかれないように生活し始まる。だが、陸の中に入ったまなみがそつなく生きていくのに対し、まなみの中に入った陸は、女友達との関係がうまく作れず孤立していく。また、生理の辛さや痴漢行為を体験し、それを相談できる人もいない中で、困惑を深めていく。さらには、実の親が死んでも、死に目にも会えないし葬式にも出られない。ひとりになった母親を元気付けることも、弟の成長を見ることもかなわない。とても切ない物語。
★読みどころ2)入れ替わりものの「お約束」をことごとく覆す。
このふたりは恋愛関係にはならないし(もとの自分と恋愛しない、というのは現実的!)、入れ替わりが元に戻ることはない。そういった「お約束」を守らないことで、自分とは何か、という根源的な問題を彼らは考えることになる。
・陸はもとの体に戻ることをどうしてもあきらめきれず、戻ったときにまなみが困らないように見た目も仕事もきちんとして生活していた。だが物語の冒頭で、入れ替わりが戻らないまま結婚・出産したことが明かされているので、彼の中の陸に何があったのか、その変化が読みどころ。
・まったくあたらしい入れ替わりモノ。これがデビュー作の、期待の新人です。
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