多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

岡嶋二人『クラインの壺』

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★内容紹介
・主人公は上杉彰彦、20代の青年。彼がアドベンチャー・ゲームブックの公募に応募した原作が、最新鋭のバーチャル・リアリティ・ゲーム「クライン2」の原作として採用された。原作者として公開前のゲームのモニターになった上杉だったが、その出来に驚く。なぜなら「クライン2」とは、映像を網膜に投影し、全身の皮膚感覚に作用することで完全なバーチャルリアリティを実現したものだったから。そのゲームは、スパイとしてアフリカの小さな国に潜入するというもので、温度や風、砂嵐の感触なども感じるし、なんと飲み物を飲むこともでき、痛みも感じる。
・バイトとして雇われたテストプレイヤーの女性、高石梨沙と上杉は、あまりに高度なバーチャルリアリティに感動したが、まだ最終調整中だからか、ゲームの途中でブラックアウトしてしまったり、シナリオにない声が聞こえたりすることがあった。そういったバグを確認しながら毎日テストを繰り返していたある日、急に梨沙がバイトを辞めてしまう。
・その翌日、梨沙の友人という真壁七美という女性から上杉に連絡があった。梨沙がバイトから帰ってこないまま行方がわからないという。七美は心配して、前の夜も何度も上杉に電話し、留守電も残したというのだが、そんな留守電は入ってないし、電話を受けた記憶もない。上杉は七美と一緒に梨沙の行方を探そうとするが、現実と自分の記憶に少しずつ食い違いがあることに気づいて……。
★読みどころ1)何が起きているのかという謎の魅力
梨沙の失踪という大きな謎はあるが、それ以外に、上杉の体験した現実と七美の体験した現実が食い違っていたり、ポケットに入れたはずのものがなくなっていて、それが次の日にはまたポケットに入っていたりといった、小さな謎がちょこちょこ出てくる。さらにゲーム中に聞こえる謎の声などを合わせると、バーチャルリアリティが何かかかわっているんだろうという見当はつくが、その先がわからない。現実と仮想現実の境目がだんだん曖昧になっていくスリルが絶品。
★読みどころ2)時代を先取りしたバーチャルリアリティの描写
1989年といえばファミコンやゲームボーイの時代。まだスーパーファミコンもプレステも出る前。現在、ヘッドセットを使ったVRゲームが人気だが、登場したのは2016年。それを超えるシステムを1989年の小説で描いている。今読んでもまったく古くない、というか、今読んでも近未来SFを読んでいる感じ。むしろVRに馴染んだ今の方が面白さが伝わるかも。
・岡嶋二人最後の作品にして代表作です。
岡嶋二人『クラインの壺』
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