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玉岡かおる『帆神』

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★内容紹介
・サブタイトルは「北前船を馳せた男・工楽松右衛門」。江戸時代後半の海運王にして今につながるさまざまな発明や事業を起こした人物。
・物語は松右衛門の子供時代から始まる。播磨国高砂の漁師の息子として生まれた松右衛門は、類稀な体格と人望厚い性格で目立っていたため、一部から反感を持たれ、ある事件に巻き込まれて高砂を追い出されてしまう。そのあと、兵庫津(現在の神戸界隈)の大手廻船問屋に水夫として雇われる。そこで瀬戸内の島々を結ぶ渡海船や、日本海を走る北前船などで経験を積み、次第に周囲の信頼を得て、沖船頭を任されるまでになった。まずこの段階で、船乗りの仕事が詳細に描かれるのが興味深い。
・その過程で松右衛門は、開運の効率化のためにさまざまな事業に手を出す。最も有名なものが、松右衛門帆と言われる帆布。それまでは薄い木綿の布を縫い合わせた帆で嵐に遭うとすぐに破れ、船乗りの命を危険に晒していた。そこで松右衛門が考案したのが太い木綿糸で織った、縫い目のない巨大な一枚布。これにより、丈夫になっただけでなく 船の速度が増して、安全かつ迅速な海運が可能になった。これが今のトートバッグなどに使われている帆布の誕生。
・さらに港湾土木や築港も手がける。ちょうどロシアが北海道沖に現れた頃で、函館や択捉の港を建設し、その功績が認められて名字帯刀を許され、工楽の苗字を賜る。さらに小倉や鞆の浦の築港、高砂の堤防工事、はては大名が乗る船の造船まで手がけ、江戸時代の海運を大きく進歩させた人物。
★読みどころ1)帆布の発明
糸を探すところから始まり、専用の機織り機の設計を行い、さらに工場を建設する。注目すべきは、木綿農家や機織り職人など、原材料を作る人・加工する人・売る人、使う人、すべてが潤うような仕組みを作ったこと。さらに丈夫な帆布で開運の効率があがったため物流そのものが以前より大きく回り始め、関わる人すべてに利益をもたらす。すごいのは、この帆布を独占せず、誰でも作っていいという仕組みにしたこと。それが結局、業界を富ませ、荷物を出したり受け取ったりする地域も富ませることにつながった。物流が経済にとって・生活にとってどれだけ大事かが伝わってくる。
★読みどころ2)女性の視点で見た松右衛門の描写
松右衛門視点だけでなく、彼にかかわった四人の女性の目を通して彼が描写される。それにより、単なる実業家ではなく、人間としての面白さが伝わる。フィクションではあるが彼のロマンスや家族の物語が加えられ、なぜ松右衛門がここまで発明や工夫にこだわるようになったのかという人物像が掘り下げられ、厚みのある物語になった。
・今も、彼が作った堤防や帆布が残っている。場所だけでなく時代を超えて物を運んだ革命児の物語。
玉岡かおる『帆神』
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