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日明恩『鎮火報』

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★内容紹介
・2003年に出た小説。現在は2010年刊行の文庫と電子書籍が流通しています。内容を一言で言うなら、青春社会派消防ミステリ。
・主人公は新米消防士の大山雄大(たけひろ)。元不良少年で、ひょんなことから消防士になったが、使命感はゼロ。仕事だからやることはやるけれど、早く事務方に異動して安穏な生活をするのが夢。
・ある日、出火の通報に雄大たちが駆けつけてみると、そこは不法滞在の外国人が暮らす古い木造アパートだった。鎮火に当たったり、中にいた要救助者を助けたりしているとき、雄大はこの火災におかしなものを感じる。もしかしたら放火ではないか──?
★読みどころ1)登場人物のキャラクター
大山雄大がめちゃくちゃいい。運動神経抜群の191cmのマッチョで強面。昔はヤクザにスカウトされたこともあるというほどのワルで、消防士になってからも憎まれ口ばかり叩く。だがその口調が明るくてユーモラス、さらに性格は楽観的で能天気。彼の語りがとにかく楽しい。だがその口調と裏腹に、実は雄大はかなり義理人情に熱く責任感の強い男だというのが伝わる。燃えている家の前で「あー、やだやだ、入りたくねえ」と言いながら、いざとなれば大活躍。他の消防士や登場人物も、ひとりひとりにファンクラブができそうなほどキャラが立っている。
★読みどころ2)消防の仕事の描写
消防の仕事がとても詳しく具体的に描写される。通報から出動、鎮火までの様子はもちろん、通報のないときに何をしているか、火事以外にどんな仕事があるか。消火栓から使った水道代は消防が払ってるとか、食事中の出動もあり得るので麺類は伸びないよう麺と汁を別に出すとか。その情報に驚くとともに、いかに自分が消防という職業に対して理解が薄かったか、関心がなかったかがわかって驚く。見知らぬ他人のために火の中に飛び込んでいく危険な仕事なのに、消防車に道を譲らなかったり、消火栓のそばに駐車していたり、「税金で給料をもらってるんだから当たり前」などと言う人もいる。物語の終盤で、雄大がそんな人々に向かって大声を張り上げるシーンがある。そこを読んだら、二度とそんなことは言えなくなること請け合い。
★読みどころ3)ミステリとしての面白さ
といっても、決して消防の重要性を讃えあげる説教くさい話ではない。豪快な雄大の魅力満載の、コミカルでエキサイティングな青春ミステリ。声をあげて笑うような場面もたくさんある。木造アパートの不審火事件に端を発した物語は、思わぬ展開になる。
・謎解きとサスペンスと消防の職業情報と青春と社会問題とお笑いの全部載せ。読み出したらとまらない消防ミステリの傑作。

日明恩『鎮火報』
双葉文庫から901円で販売中です。
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