多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

坂井希久子『雨の日は、一回休み』

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★内容紹介
・おじさんは辛いよ、という短編集です。収録作は五作、いずれも企業戦士の中高年が主人公。ところがどの話のおじさんたちも、なかなか思うようにいかない。いったい何が悪いんだ、という物語。
・たとえば第一話は、バブル世代の中間管理職のおじさんが主人公。ある日、上司に呼び出されて、部下のひとりからセクハラの訴えが出ていると聞かされる。でもこのご時世、セクハラには人一倍気をつけてきたので、まったく身に覚えがない。これは悪意のあるデマだ、いったい誰がそんな嘘をついているのか、主人公は部下の女性たちを観察するが……。
・初めは主人公に同情するが、読んでいくと比較的早い段階で、「あ、これだ」と気づく人と まったくわからない人に分かれるはず。気づく人にとってはとても簡単なことだが、気づかない人は主人公と同じ間違いをしている可能性がある。本人はそれがハラスメントになるとはまったく思ってない、むしろ自分も上司にそう指導してもらって出世してきたのだから、部下にとっていいことだと思ってやっている。
・第二話以降も、悩めるおじさんたちの物語。後輩の女性に出世で追い抜かれてやる気をなくしちゃうおじさんや、定年退職後に何をしていいかわからず街に出て公共マナーを注意して回るおじさん。興味深いのは、会社命令であるセミナーに参加した管理職の話。「隣にいる人と互いに自己紹介してください、ただし、勤め先や部署、役職、仕事の内容や経験などを話してはいけません」と言われ、それこそが自分なのに、それを止められるとまるで自分が否定されたような気がして腹を立ててしまう。
★読みどころ1)すべてのおじさんに共通しているもの
どのおじさんも、時代が変わった、社会が変わったということはわかっている。でも自分はこれだけ頑張って会社の中で生き抜いてきたという自負があり、成功体験になっている。それを古い考え方だと言われてしまうと、自分のこれまでの努力や人生が否定されたような気持ちになってしまい、受け入れられない。この短編集はどれも、そんなおじさんたちがどうやって価値観を変えていったかが描かれる。自分が何にこだわっていたのかを知り、何を変えればいいのかに気づくと、それまでよりずっと楽に生きられるようになる。
★読みどころ2)決して中高年男性を非難する物語ではない。
女性も、特に男社会でがんばってきた女性ほど同じようなこだわりを持ってしまう。おじさんたちを含めたすべての人が、もっと生きやすくなるにはどうすればいいかを描いている。対立ではなく理解と共感のための物語。

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