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行成薫『立ち上がれ、何度でも』

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★内容紹介
・主人公はふたり、小学校の同級生の大河と虎太郎。虎太郎は体が小さくていじめられっ子だったが、大河が趣味のプロレス観戦に虎太郎を連れ出したのがきっかけで親しくなっていく。ところがある日学校で、同級生たちがふざけてプロレスごっこをはじめ、体の小さな虎太郎に技をかけようと、大河を誘う。大河はここで断ったら自分がいじめられるのではと考えてしまい、虎太郎に危険な技をかけて、大ケガを追わせてしまう。この一件と、違う中学校に進学したこともあって、ふたりの付き合いは途絶えてしまう。
・それから時が経ち、大河は日本最大のプロレス団体の若きスター選手としてデビューした。一方、虎太郎は教師を目指したものの、ある出来事をきっかけに、プロレスのインディー団体の覆面レスラーとして活躍するようになる。そしてふたりは、プロレス界でもメインとされる大きなイベントで対戦することになる。
★読みどころ1)プロレス界のリアルな描写
プロレスというと、よく言われるのが「筋書きが決まってる」ということ。その「筋書き」について、この小説は詳しく描写している。どっちがどうやって勝つかだけではなく、レスラー同士の間の遺恨だったり対立だったり、あるいはケガまで演出するという。ところが、筋書きも勝敗も決まっているのに、プロレスは「真剣勝負」だという。その矛盾した言葉の意味が本書を読むとわかる。たとえば途中、大河が試合中に肩を亜脱臼してしまう。が、その試合の筋書きは、大河がラリアットから投げ技で決めるというものだったから、亜脱臼を起こした肩で大技をかける。とにかく試合の場面は大迫力!筋書きというのが、わざと勝つとか負けるとか、そんなレベルの低い話ではないことがわかる。
★読みどころ2)強さとは何かというテーマ
大河は体が大きくて実力もあり、ルックスも良くて、スター選手の道が約束されている。虎太郎は体は小さいが抜群の運動センスで、草の根から這い上がってきた。正反対のように見えるが、実はふたりとも、プロレスをやる動機は同じ。強くなりたいから。これは肉体的な話ではなく、自分が小学生の頃に親友に怪我をさせたことも、そのせいで道が離れてしまったことも、ぜんぶ自分が弱かったから、誰も傷つけずに済むくらい強くなりたい、という思いがある。プロレスの強さは勝つことではなく、ひとつ間違えば大ケガをするかもしれない、死ぬかもしれない技を受け続けるという恐怖に打ち勝ち、何度マットに沈められても、その度に立ち上がることが強さ。これはプロレスだけの話ではなく、すべてのことに言える。
・これを読むとプロレスが見たくなること間違いなしの一冊。

行成薫『立ち上がれ、何度でも』
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