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町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』

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・本屋大賞受賞作。出版されたのは昨年4月、最初の緊急事態宣言下で書店も軒並み休業中だった。そんな中で、クチコミでじわじわと評判を伸ばしてきた作品。
・著者の町田そのこさんは1980年生まれ、2017年に『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』という連作短編集でデビュー。『52ヘルツのクジラたち』は著者4冊目の小説で、初の長編。
★内容紹介
・物語の主人公は三島貴湖という若い女性。彼女はある事情から、人間関係をすべて断ち切って、大分県の漁村の、とある一軒家に引っ越してくる。しかし田舎ならではの無遠慮な視線に晒され、うんざりしていた。そんなある日、貴湖はひとりの少年と出会う。言葉をまったく発することのできない少年はお風呂に入っていないような身なりで、体には多くの痣があった。虐待されているのではないか、と思った貴湖は、それから少年を気にするようになるが──。

★読みどころ1)徐々にあきらかになっていく貴湖の過去
貴湖は実の母と義理の父からずっと虐待を受けて育ってきたことが序盤で明かされる。高校を卒業したら家を出ようと思っていたのに、そのタイミングで義理の父が難病に倒れ、その介護と家事をすべて押し付けられることに。そんな暮らしに限界を迎えたある日、高校時代の友人と偶然再会し、貴湖の実情を知った友人とその知り合いが彼女を実家から引き離してくれた。そうして貴湖は実家と縁を切り、生活を立て直してきたのだが……。ではなぜ、今、そんな友人たちとも離れて知り合いの誰もいない九州で暮らしているのか?何があったのかという興味でぐいぐい引き込まれる。

★読みどころ2)タイトルの意味
クジラの鳴き声の周波数は普通10ヘルツから39ヘルツ。ところが52ヘルツの周波数を持つクジラがいて、周波数が違うためにいくら大きな声で鳴いても他のクジラに届かない。世界で一頭だけと言われており、存在自体は確認されているものの、姿を見た人はいないという。そのクジラを、虐待されて助けてほしくてもその声が誰にも届かなかった貴湖や少年になぞらえている。実はふたりだけではなくて、他の登場人物の中にも、他の人には届かない声をあげている人がいる。現実にもそういう人はたくさんいて、声を上げるのを諦めた人もいるし、声すらあげられない人も、声をあげられることを知らない人もいる。そういう声なき声を、この物語はすくいあげていく。

★読みどころ3)辛いテーマなのに、軽やかに読ませる
そう紹介すると読むのが辛い話のように思えるかもしれないが、そんなことはない。なぜなら声なき声に気付ける人と、気づいてもらうことで立ち直っていく様子が描かれるから。もちろん辛い場面もあるが、ちょっと離れて客観的に書いているので重苦しくはない。
・声なき声に気付ける人でいたい、と思わせてくれる優しい物語。

町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』
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