多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

鈴村ふみ『櫓太鼓が聞こえる』

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★内容紹介
・主人公は、新人の「呼出」の篤。17歳。呼出とは相撲の取組に先立って、力士の名前を呼び出す役目のこと。篤は高校に入学したものの学校に馴染めず1ヶ月で中退してしまう。両親とも険悪になって家にいづらくなったとき、相撲ファンの叔父の口利きで、朝霧部屋に呼出として入門することになった。
・物語冒頭、秋場所が舞台の第一章の始めの段階で、入門して4ヶ月。呼出の中ではいちばん下っ端だが、番付の中でも最も下の序の口の取り組みで呼出を担当することになった。ところがそこで、力士の名前を間違えるという、やってはいけない失敗をしてしまう。
・呼出初体験の秋場所から、翌年の名古屋場所まで、一年六場所を使って篤の変化と成長を描く、青春相撲小説。
★読みどころ1)呼出という仕事
呼出というと「にぃし~、ひがぁし~」というあの印象が強いが、実は他にいろいろな仕事をしていることが詳しく描かれる。たとえば場所前に土俵を作るのも呼出さんたちの仕事。全部の部屋の呼出さんが総出で(四十数名いる)三日間かけて土を盛り、専用の道具で固め、円を描き、俵を埋め込み、再度土を叩く。すべて手作業。さらに、土俵の中央には神様への供物を鎮める。こういった手順が詳しく描かれる。また、力士の名前を呼び上げた後は、扇子をほうきに持ち替えて土俵を掃く役目や、横綱の取り組みの前に懸賞幕を持って土俵を一周する役目も呼出の仕事。他に、太鼓や拍子木を打ったり、力士や行司の世話をしたり、細々した仕事がたくさんある。主人公の篤が新米なので、そういった業界のあれこれに読者と同じ目線で驚いたり感心したりするので、読者もすんなり相撲の世界に入っていける。
★読みどころ2)土俵の上以外にも、人が輝く場所はたくさんある。
相撲界の中心は力士だが、その周囲で相撲という世界を支えている人たちがたくさんいて、そういう人たちがいなければ相撲は成り立たないことがよくわかる。また、篤が所属する朝霧部屋は所属力士は6人、関脇はひとりもおらず、幕下の力士が最高位という弱小部屋だが、最年長の力士がちゃんこ係を買って出て、皆を支えている。土俵の上で拍手と声援を浴びる関取以外にも、表舞台には立たないけれどそれぞれの場所で頑張り、輝く裏方さんがたくさんいる。
社会の中でもそういう裏方さんはたくさんいて、そういう裏方さんたちにエールを送る物語。
・5月場所の前に読んでおくと、相撲中継がより楽しくなる一冊。

鈴村ふみ『櫓太鼓が聞こえる』
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