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北森鴻『花の下にて春死なむ』

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★内容紹介
・1998年に出版された、ミステリの連作短編集。
・東京の三軒茶屋にあるビアバー「香菜里屋」に集まる人々の悩みや謎をマスターが解決するというもので、全4冊のシリーズ。これはその1冊目。
・著者の北森鴻さんは1961年生まれ。1995年に、歌舞伎をテーマにしたミステリでデビューし、1999年に、この『花の下にて春死なむ』で推理作家協会賞を受賞。2010年に48歳の若さで、病気で亡くなった。
・シリーズ第1作の『花の下にて春死なむ』には6作の短編を収録。表題作は、身よりのない俳人・片岡草魚が自室で衰弱死したという話から始まる。俳句と日記帳だけを残して亡くなった彼は、名前も本籍地その他の個人情報はすべて架空のものであったことが死後に判明する。俳句の仲間で葬儀を営んだのち、俳句仲間のひとりでジャーナリストでもある主人公が、遺品を故郷に返すため彼の出身地を突き止めようとする。生前の本人の発言などから、彼の故郷は山口県の下関市であることがわかるが、本人の日記によれば、故郷には帰りたくても帰れない理由があるらしいことと、その原因は40年も前の出来事にあるらしいことが判明。それはいったい何なのか、彼はなぜ、故郷も名前も捨てて暮らすことになったのか──。
・他に、「家族写真」という短編は、地下鉄の駅にある貸し借り自由の本棚の文庫本30冊にモノクロの家族写真が挟まっていたという謎。「終の棲み家」という話は、新進カメラマンの個展のポスターがすべて盗まれてしまったという謎が語られ、いずれもビアバー「香菜里屋」のマスターがその謎を解きほぐす。

★読みどころ1)ビアバーで出てくる料理が美味しそう!
著者の北森さんは調理師免許を持っており、料理の描写が絶品。暗い話が多いが、マスターがいいタイミングで出してくる料理で読者もほっとできる。

★読みどころ2)捻りの効いた謎解き
どれも謎解きが一度で終わらず、そういう真相だったのかと納得した後に、もう一捻りある。しかもマスターが鮮やかに解決するというより、ヒントやアドバイスを出して主人公を誘導するという方法をとるので、読者も主人公と一緒に考える楽しみがある。

★読みどころ3)美しくも切ない物語
6作の中には箸休め的なコミカルなものもあるが、大部分が、失ったものへの寂寥や、取り戻すことのできない後悔を描いている。謎が解かれることで、失ったものが戻るわけではないが、少し救われる。その静かにしみる雰囲気がとてもいい。

・この「香菜里屋」シリーズは先月から月に一冊ずつ、4ヶ月連続で新装版が刊行されている。この機会にぜひ。

北森鴻『花の下にて春死なむ』
新装版は講談社文庫から税込748円で販売中です。
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