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ジョセフィン・テイ『時の娘』

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★内容紹介
・1951年に発表されたイギリスの歴史ミステリで、今も読まれ続けるロングセラーです。
・主人公はスコットランドヤード(ロンドン警視庁)のグラント警部。彼は犯人追跡中にケガをして入院する。そのお見舞いとして、歴史上の有名人の肖像画がたくさん差し入れられた。
・それを眺めていると、その中にひとり、とても立派な人物と思われる絵があった。グラント警部は顔からその人物の人間性を見抜くことに自信を持っており、この人物はきっと裁判官か何か、良心的で素晴らしい仕事をした人に違いないと考える。ところがそれは、イギリス史上最大の悪人と言われた、15世紀の国王・リチャード3世だった。
・リチャード3世はもともと、王の弟。兄である王にはふたりの王子がいて、死後は長男の王子に王位が渡った。ところがリチャードはこの王子ふたりを殺してしまい、自分がリチャード3世として王になった。自分が王になるため甥ふたりを殺した悪人として、ずっと語り伝えられてきた人物。シェークスピアの芝居にもなるほど、イギリスなら誰もが知っている悪人。
・グラント警部は自分の人を見る目に自信があったので、この肖像画の人物が私欲のために甥を殺したとはとても信じられない。そこでグラント警部は、お見舞いに来てくれる歴史好きの若者に協力してもらい、史料や歴史書を集め、歴史を調べ始める。すると、実はリチャード悪人説は誰かがわざと流したデマなのではないかと思えてきて……。

★読みどころ1)歴史の謎を探り、新解釈を打ち立てる面白さ
日本でも忠臣蔵の吉良や本能寺の明智光秀など、小説やお芝居の影響でずっと悪者扱いされてきた歴史上の人物がいる。中でも、戊辰戦争での新選組や、南北朝後の足利尊氏など、その後の政府の都合で悪人扱いされてきた人も多い。リチャード3世もそうだったのではないかと当時の権力者を調べ、今までとはまったく違う物語を作り上げていく。それで筋が通り、とても説得力のある別解釈ができあがるのが実に新鮮。この物語がきっかけで、イギリスではリチャード3世善人説が巻き起こった。小説が人々の歴史観を変えた例。

★読みどころ2)ベッド・ディテクティブというジャンル。
ディテクティブとは探偵のこと。ベッドにいながらにして探偵をするという意味で、入院中のグラント警部が病室を一歩も出ずに推理をしたことからこう呼ばれる。今の時期にぴったりの、ステイホーム探偵。これはミステリの1ジャンルになり、日本でも『時の娘』に影響されて、高木彬光が『邪馬台国の秘密』という小説を書き、出版当時に大きな話題を読んだ。
・もちろん歴史の真相はわからないが、こんな見方ができるのかというサプライズはたっぷり。さらに15世紀イギリスの歴史まで勉強できてしまうお得な一冊。

ジョセフィン・テイの『時の娘』
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