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荻堂顕『擬傷の鳥はつかまらない』

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新潮ミステリー大賞の新人賞を受賞したデビュー作。
★内容紹介
・擬傷とは、一部の鳥の習性で、雛が天敵に襲われたときに親鳥がケガをしたふりをして天敵をひきつけ、雛を逃がす行動のこと。
・主人公は東京の歌舞伎町で暮らすサチという女性。彼女は風俗で働く女性のために、「嘘の身元保証」を作る仕事をしている。硬い仕事についているような偽の身分証明書を作ったり、ペーパーカンパニーを作ってそこで働いているように書類などを偽造したり。
・そんなサチには、もうひとつ裏の仕事があった。それは「逃がし屋」。ここから逃げ出したいと思っている人を、まったく違う場所へと逃してやる仕事。
・ある日、ふたりの未成年の少女が「逃してほしい」と言って訪ねてきた。闇のデリヘルで働いているが、どうやらヤクザに追われているらしい。だが、サチの「逃がし屋」の客になるには条件があり、それに合わなかったため、サチは断る。すると数日後、その少女のひとりがビルから転落死してしまう。残された少女・アリサにもう一度頼まれ、仕方なく彼女を逃すことにしたサチだったが、転落死したもうひとりの少女はアリサが殺したという話を聞く。さらにアリサが逃げ出したいという背後には、一年前に名古屋で起きた殺人事件があるらしいとわかる。
・アリサを追っているというヤクザもその殺人事件にかかわっていたらしく、サチはすべての真相を明らかにすべく、名古屋に行き、その事件のことを調べるのだが……。

★読みどころ1)ハードボイルドな事件調査
サチが関係者に聞き込みをしてまわる家庭は、まさにハードボイルド探偵小説の趣。裏社会の人間関係や、売春に走る少女たちの心の闇などが浮き彫りになり、社会派としても読ませる。さらに、その先に見えてくる真相はミステリの醍醐味たっぷり。
★読みどころ2)ミステリとファンタジーの意外な融合
実はこれはファンタジー小説でもある。サチの「逃がし屋」というのは、この世に絶望した人を本当に別世界へ連れていくというもの。その別世界がどういう場所かは詳しくは言えないが、心に抱えた後悔が帳消しになる世界。人は誰でも「あのとき、ああしておけばよかった」「あれさえなければ」という後悔を抱えているが、本当にその後悔をなくしてしまっていいのか、後悔を抱えて生きる意味とは何かを問いかける。
・リアルなハードボイルド・ミステリとファンタジーという異質なものが、違和感なく、ひとつのテーマに向かって融合していく様が見事な一冊。

荻堂顕『擬傷の鳥はつかまらない』
新潮社から税込1870円で販売中です。

 
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