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西條奈加『金春屋ゴメス』

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★内容紹介
・直木賞受賞作『心淋し川』のイメージで、しっとりした時代小説の人という印象が広がったが、2005年のデビュー作はかなりかっとんだ近未来ファンタジー。
・舞台は近未来の日本。関東北部から東北南部一円にかけて「江戸国」というエリアがある。21世紀のはじめに金持ちが道楽で江戸の景色を再現したところ、賛同者が次々と現れて江戸そのものの街並みを作り、そこに人が住み始め、江戸時代の様式で暮らすようになり、ついには日本からの独立を宣言した。さすがに独立は認められなかったものの、日本の「属領」扱いとなり、自治を獲得。江戸国は鎖国を行い、日本と江戸の行き来には厳しい制限が設けられた。
・主人公は日本に住む大学二年生の青年、辰次郎(しんじろう)。彼は難関をくぐり抜けて江戸国への入国を許可された。実は辰次郎の一家はかつて江戸に住んでおり、辰次郎が幼い頃に日本に移住した。辰次郎には江戸にいた頃の記憶はないが、父が病気で余命わずかとなり、父の思い出の品を江戸の神社に奉納するのが目的。
・江戸での辰次郎の身請け先は、長崎奉行の馬込播磨守、通称・金春屋ゴメス。辰次郎はゴメスのもとで下働きを始めるが、その矢先、江戸で謎の感染症が流行り始める。実は15年前にも発生した病気で、そのとき、まだ5歳だった辰次郎が唯一の生き残りだったことが判明する。辰次郎はなぜ助かったのか、ゴメスに命じられて過去を調べ始めると……。
★読みどころ1)未来の日本の中に江戸があるという設定
現代(近未来)日本から移住した辰次郎が江戸のスローライフにいちいち驚く場面や時代劇マニアの移住者のテンションが上がったりするのが楽しい。一方、江戸の描写は時代小説そのもので、さすが後に時代小説でブレイクする作家らしい描写。
★読みどころ2)今に通じる感染症描写
 ここに登場する感染症は赤痢に似たものだが、特効薬を探したりワクチンを作ろうとしたり、感染者を封じ込めて感染を防ごうとしたり、鎖国をやめて日本の医療に頼ろうという意見が出たりする。本が出た当時とは違ったリアリティを感じる。
★読みどころ3)意外な真相
最後に明らかになるある秘密は、「そこにつながるのか」という驚きの真相。最後まで読むと実はミステリ小説だったことがわかる。
・今は残念ながら流通してないので図書館や古本屋を利用するしかないが、直木賞受賞でもしかしたら復刊されるかもしれない、記念すべきデビュー作。
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