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164回直木賞受賞作  西條奈加さんの『心淋し川』

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★内容紹介
・江戸、千駄木の貧乏長屋を舞台にした連作短編集。小さな川が淀んでドブのようになったところのどん詰まりに、古くみすぼらしい長屋がある。長屋と言っても打ち捨てられた空き地に勝手に小屋を建てて住み着いているような状態。ここに住むのはワケありの人ばかりで、社会の底辺の吹き溜りのような場所。そんな長屋の住人たちをひとりずつ主人公にした六篇が収録されている。
・第一話は、働かない父親を持つ娘が主人公。この長屋が嫌で、いつか出ていきたいと願っている。そんな娘に恋人ができた。彼がこの長屋から連れ出してくれると期待するが、一緒になるかどうかという話になるとどうも煮えきらない。そんなとき父親が問題を起こして……
・第二話は、この長屋の差配(管理人)が囲っている妾の話。差配は妾を四人、この同じ長屋に住まわせている。その中でも最も年上で、ほとんど及びがかからなくなった女性が主人公。若い妾にバカにされる日々だったが、ふとしたことで生活に楽しみを見出す。
・そんなふうに、生活も苦しく鬱屈を抱えた人々の物語が順に綴られていく。

★読みどころ:どんな境遇でも人は変わることができる、というテーマ
江戸時代は今より身分制度が厳しく、今の場所から這い上がるということが難しかった。本書の登場人物たちも、それぞれ事情は違えど、大逆転はできない。不遇な状態に抵抗するのではなく、その中でなんとかやり直そうとする姿が描かれる。中には出ていく機会があったのにとどまることを選んだ人もいるし、たまたま就いた仕事に思わぬやりがいを見出す者もいる。今の境遇でできることを見つけていく。現代も格差社会と言われているが、本書は格差により分断された社会で人が生き直そうとする姿を描くことで、今の読者に癒しと励ましを与えてくれる作品。

第164回直木賞受賞作 西條奈加さんの『心(うら)淋し川』
集英社から1760円で販売中です。
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