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伊坂幸太郎『逆ソクラテス』

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★内容紹介
・五つの物語が収録されていて、共通点はどれも小学生が主人公。ただし、児童小説ではなく、どれも大人になってからの回想だったり、主人公のその後が描かれていたり。テーマも、理不尽な現実にどう抵抗するかという、かなり深い大人向けの短編集。
・第一話は表題作の「逆ソクラテス」。6年生男子の草壁くんがピンクのセーターを着て投稿したとき、担任の久留米先生が「女子みたいな服だな」と言った。それからなんとなく草壁くんをからかってもいいという雰囲気がクラスに生まれてしまう。草壁くんと親しいクラスメートの数人はこの状況をなんとかしたいと考え、ある作戦を立てた。
・これは同調圧力とは何かを考えさせる話。その作戦がどんなものかは読んでいただくとして、クラスメートのひとり、安斎くんがとてもいいことを言う。先生のように権力を持ってる人や、クラスでも声の大きい子が何かいうと、全体がそっちに流れることがある。
でも、そういう人に負けないための言葉がある。それは「僕はそうは思わない」という言葉。何かを聞いたら、いちどゆっくり考えて違うと思ったら、はっきり「僕はそうは思わない」と言うのが大事。
・第三話「非オプティマス」は、授業中に缶のペンケースをわざと落として大きな音を出し、授業を妨害する子が出てくる。クラスでもリーダー格のその子は担任教師をバカにして、取り巻きをそそのかし、続け様に缶ペンケースを落とす。それでも叱らない担任教師に、保護者は「子供はもっとガツンを言ってやってもいい、厳しくしてくれ」と言うが、すると先生はある話を始める──。
・わざと周りに迷惑をかけて楽しんでいる。そういう人をどうすればやめさせられるかという話。腕づくでいくのがいいのか、それはどんな時でも有効なのか?この先生の話がとても意外で、けれどとても説得力がある。
・収録作は他にも、いじめだったり不公平だったりという世の中の理不尽を描き、それへの対抗策を小学生が学んでいくという構造。ただ、決して道徳的な教訓本ではなく、むしろ「そんな方法で?」「そんな考え方で?」と驚くような方法が示唆される。そしてこの方法は、むしろ理不尽な人間関係の中にいる大人の方に刺さる。
・物語そのものも意外な展開やどんでん返しがあってとても面白い。実は収録されている五話には、ゆるいつながりがある。それに気づかなくても物語は成立しているが、気づくとより感動できる。
・年末年始にぜひ読んでほしい一冊。

伊坂幸太郎『逆ソクラテス』です。
集英社から1540円で販売中です。
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