多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

辻堂ゆめ『十の輪をくぐる』

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★内容紹介
・物語はまず、2019年から始まる。主人公は五十八歳の会社員、佐藤泰介。妻と、高校生の娘と、認知症を患う八十歳の母との四人家族。娘は名門バレー部のエースで、もしかしたら将来は日本代表に手が届くかもしれない。
・ある日、翌年に予定されている東京オリンピックのCMを見ていた母親が、とつぜん「私は東洋の魔女」「泰介には秘密」と呟いた。母が東洋の魔女だったはずはないが、実は泰介は小さい頃から母親にバレーボールを教わり、大学まで選手として過ごした過去を持つ。さらに妻が、お義母さんは結婚前に紡績工場で働いていたという話を聞いたことがあるという。もしかして日紡貝塚だったのか? 選手じゃなくても何か関係していたのか?そこで初めて泰介は、自分の母親の若い頃の話を何も知らないことに気づく。
・物語はそこから、母親──万津子の過去と、2019年の現在が交互に語られる。1950年代、熊本生まれの万津子は中学卒業と同時に愛知県にある紡績工場に就職。女工として働き、バレー部の花形選手だった。だが19歳の時に実家から見合いの話がきて退職し、熊本で結婚。相手は三池炭鉱の会社で働く職員だった。だがこの時代、三池炭鉱は事故が多発し、夫は次第にストレスを溜め、万津子に手をあげるようになる。そしてある事件が起きて、万津子はふたりの息子を連れて実家に帰るが、実家にも万津子の居場所はなかった──。
・2019年の泰介一家の様子と、万津子の過去が、次第に一本の線で結ばれていく。
★読みどころ1)1950年代から60年代の描写。
女工たちの労働の様子や、仕事がきつい中でも青春を楽しんだことや、妻は耐えて当たり前という昭和の風潮、炭鉱町の様子などがリアルに描かれる。
★読みどころ2)謎解きの興味
母が言った「私は東洋の魔女」という言葉の意味、「泰介には秘密」というのは何が秘密なのか、それが次第にわかっていく過程はミステリのような醍醐味がある。
★読みどころ3)家族とは何かというテーマ
おそらく読者は読みながら、主人公の泰介に対し、もっとお母さんや妻に優しくすればいいのにとか、会社でももっと若い人を理解しようとすればいいのにとかと感じるはず。だがその印象は物語が進むにつれて、意外な方向に変わるはず。母の過去と、泰介の現在と、今の家族がすべて1本の糸でつながり、親の愛情の深さと、子が親に抱く愛情の強さに、感動すること間違いなし。
・親がどんな思いで自分を育ててくれたか、あらためて家族に感謝したくなる一冊。

辻堂ゆめ『十の輪をくぐる』
小学館から1870円で販売中です。
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