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千田理緒『五色の殺人者』

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★内容紹介
・舞台はあずき荘という小規模の介護施設。デイサービス、ショートステイ、訪問介護などを請け負っている。ある日、ショートステイで宿泊していた男性の利用者が、宿泊室で死体で発見された。頭を殴られて殺されたらしい。さまざまな状況から内部犯の可能性が高い。そのとき施設内にいたのは職員と利用者、そして面会に来ていた利用者の身内の人たち。
・犯行時刻の直後、犯行現場の部屋の方から廊下を走り去った人物を5人の利用者が見たという目撃証言が出た。その5人は共有スペースにいて、開けっぱなしだったドアから走る人物が一瞬見えたという。だがドアののれんや廊下の荷物が邪魔をして顔と下半身は見えず、見えたのは首から下の上半身だけ。5人は男性だったと証言したが、服の色は、それぞれ赤、緑、白、黒、青と全員がばらばらの証言だった。これはいったいどういうことか?
・一方、警察は、面会に来ていた利用者の孫息子を疑っていた。被害者は認知症で「もの盗られ妄想」があり、同じ利用者の女性を泥棒呼ばわりしていた。その女性の孫息子が怒って殺してしまったのではないか。この施設の介護職員のメイとハルは、その孫息子に好意を抱いていたので、自力で犯人を探そうとするが……。
★読みどころ1)シンプルにして魅力的な謎
ミステリの長編はトリックや仕掛けがどんどん複雑化する傾向にあるが、この話は「どうして同じものを見た5人の証言がバラバラなの?」という、この一点のみで読者を引っ張る。さらに舞台が介護施設というのもポイント。中には100歳を超える人や、記憶がイマイチあやふやな人もいる。どこまで信じられるのか?というのも話を面白くしている。もうひとつ、実は「凶器はどこへ消えた?」という謎もあるが、いずれもとてもシンプルで、シンプルなだけにそれが解かれたときの「そうだったのか!」というカタルシスが大きい。
★読みどころ2)ひっそりと仕掛けられたひっかけ
そのメインの謎の他に、物語にある仕掛けがある。これはミステリを読み慣れた人は「あれ? もしかしてこれ伏線では?」と気づくかもしれないが、気づいたとしても、それがどう真相にかかわるかは見抜けないはず。
★読みどころ3)軽快で楽しい文章
介護施設を舞台としながら、主人公が明るくて内容も軽快で、読んでいてとても楽しい。でも、楽しい中に、何気ない一文にヒントが隠されていたりするので侮れない。
・推理クイズとしても、介護職の奮闘記としても、お仕事ミステリとしても楽しめる一冊。

千田理緒『五色の殺人者』
東京創元社から税込1760円で販売中です。

 
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