多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

朝倉宏景『あめつちのうた』

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★内容紹介
・舞台は阪神甲子園球場のグラウンド整備を一手に担う会社・阪神園芸。
・主人公は高校を卒業して阪神園芸に入った、社会人一年生の雨宮大地。大地は東京出身で、高校時代、野球部の強豪校でマネージャーをしていた。甲子園に出場し、初戦で敗退した仲間が甲子園の土を集めているとき、出遅れて土を集められない選手のところに、グラウンドキーパーがトンボでこっそり土を寄越していたのを見て感動し、入社を決意した。
・最初はわからないことだらけで失敗続き。中でも困ったのが、長谷という一年先輩の社員がやたら絡んでくること。長谷は二年前の甲子園優勝投手だったが、決勝戦の無理がたたって肘を剥離骨折し、プロ入りも進学もかなわなかった。
・長谷は何を考えて阪神園芸に入ったのか。大地は一人前のグラウンドキーパーになれるのか。
★読みどころ1)グラウンド整備の裏側がとても興味深い
お仕事小説は、モデルにした会社があっても名前を変えて架空の話にするのが普通。だが甲子園という具体的な場所を出すことと、取材した阪神園芸の努力や苦労をそのまま伝えたくて、敢えて実在の社名を出した。ここに出てくる仕事内容は現実に即していて、甲子園の土が水捌けのいい理由や、そのために何をしているかとか、整備以外にどんな仕事をしているかなど、裏方の仕事の大切さがよくわかる。
★読みどころ2)コンプレックスの物語
大地は子供の頃から運動神経ゼロ。しかし父親は体育会系で、弟は才能ある野球選手。運動ができないことで父親にがっかりされ、大地はずっと疎外感を感じてきた。けれど、自分が整備した甲子園で弟が野球をしているのを見て、次第に考えが変わる。甲子園の土は、30センチくらいの厚さがあって、それを定期的に掘り返している。そうしないと水が通りにくい層ができてしまって、水捌けが悪くなる。大地は疎外感で心が固まってしまい、それを掘り返すことで心の水捌けがよくなっていく。心に一気に水が通る場面は、とても感動的。
・お仕事小説としても、青年の成長小説としても、感動的な一冊。
朝倉宏景『あめつちのうた』
講談社から1760円で販売中です。
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