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宮部みゆき『火車』

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★内容紹介
・1992年の作品。宮部みゆきの現代ミステリの代表格にして、28年経った今でもミステリのオールタイムベスト投票などで上位に入る名作。
・主人公は怪我をして休職中の刑事、本間。彼のところに親戚の青年が訪ねてきて、婚約者の関根彰子が行方不明になった、探して欲しいと頼む。話を聞くと、結婚準備で買い物をするのに、彼女がクレジットカードを持っていないというので作ることにしたが、後日、担当者から「関根さんは過去に自己破産しているためカードは作れない」と返事がきた。それを聞いた彰子は、翌日、行方をくらませた。
・依頼を受けた本間は彰子の勤めていた会社などで話を聞いたあと、破産宣告の手続きをした弁護士に話を聞いたが、今どこにいるかはわからない。ただ、弁護士の語る彰子と、親戚の青年や勤め先の同僚が語る彰子に矛盾があるように感じた本間は、弁護士に彰子の写真を見せるとこの人は関根さんではない」と答えた。
・消えた彰子は、本当は誰なのか。本当の彰子はどこにいるのか。
★読みどころ1)28年前の社会の描写
これは当時社会問題になっていたカード破産を扱った物語だが、利息のシステムや個人情報の扱いなどが今とかなり違う。携帯電話は高価で持ってない人が多い。メールも登場しないし、写真はフィルムで写真屋さんで現像してもらう。現役作家の書いた現代ミステリではあるが、28年の変化がはっきりして興味深い。
★読みどころ2)社会的弱者を見つめる優しい目線
カード破産だけでなく、何か困った事態になったとき、自己責任で片付ける人が多いが実際は法律や社会システムが整備されていれば助かるケースが多い。しかもカード破産は真面目で気の弱い人がなりやすく、誰もが同じ目に遭う危険性がある。誰もがリスクがあることを自己責任で片付けることの問題を鋭く突いている。この自己責任論は当時より今の方が激しくなっている。もう一度考え直すのにいい物語。
★読みどころ3)作中に登場する人物のモデル
本間に自己破産の問題と弱者救済についてレクチャーする弁護士は、宮部みゆきが実際に取材した弁護士の言葉を使っている。
・現代にも通じる、むしろ今こそあらためて読みたい一冊。
宮部みゆき『火車』
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