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アルベール・カミュ『ペスト』

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★内容紹介
・ノーベル文学賞を受賞し、『異邦人』などで知られるカミュの代表作。1947年刊行。パンデミック小説としても有名な本書が、新型コロナの感染拡大で売れている。1ヶ月で3万部の増刷。70年前の世界文学がこのペースで売れるのは極めて稀。
・舞台は1940年、当時フランス領だったアルジェリアの港湾都市オランでペストが流行、次々と人々が死んでいく。市は感染拡大を阻止するため外界と完全に遮断。医者は懸命に頑張るが、ペストの被害は拡大の一途を辿る。行政の対応もことごとく後手にまわり、住民たちは混乱、そして死者は増え続ける。そんな中で戦う人々を支えたものは何だったのか?
★読みどころ1)極限状態での人間模様
絶望的な戦いを続ける医療関係者、オランから脱出しようとするものもいれば、脱出を断念して医者たちと協力することにした新聞記者、ペストは神の審判だと説く神父、役人、刹那的な享楽に現実逃避する民衆、そして家族との別れ。出口の見えない閉鎖状況で人間の嫌な面も出てくる中、それでも自分の仕事を懸命に貫こうとする人々の尊さが描かれる。
★読みどころ2)カミュがこの物語に込めたもの
ヨーロッパでペストが大流行したのは14世紀で、この物語のパンデミックは架空。これは実は、カミュが体験したナチスドイツ占領下でのヨーロッパの比喩。罪のない人が次々と殺される不条理と、それに抵抗する者、迎合する者、利用する者という戦争や独裁者へのアンチテーゼになっている。
★読みどころ3)現在との類似
病気が広がりつつある段階で、まさに今のことじゃないかと思える描写が多々ある。

・他にもパンデミックとの戦いを描いた小説に、前にこのコーナーで紹介した澤田瞳子『火定』がある(奈良時代の天然痘パンデミックの話)。歴史小説は過去が舞台であっても、常に現代を照らすジャンル。過去に何を学んだか、間違いを繰り返してないか、考えながら読みたい作品。

アルベール・カミュ『ペスト』
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