奥田英朗『罪の轍』

多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N / カルチャー
東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年が舞台のミステリ。
★内容紹介
物語の始まりは北海道の礼文島。昭和38年7月、二十歳の青年が、ある犯罪をきっかけに島から逃走、北海道本島に流れ着く。彼は原野に分け入り、無人の林野庁詰所を発見。作業着と腕章を盗んで逃走する。
その1ヶ月後、東京の下町・南千住で殺人事件が発生。聞き込みを続けるうちに刑事たちは不審な若者を見たという証言に出会う。森などない東京の下町を 林野庁の腕章をつけて歩いている男がいたというのだ。
捜査本部は大勢の警官を動員して捜査を続けていたが、近くの浅草署管内で小学校一年生の少年・鈴木吉夫ちゃんが誘拐され、そちらに人員が割かれることに。報道管制が引かれたが、のちに「吉夫ちゃん誘拐事件」として日本中が注目することになる。そして南千住の殺人と吉夫ちゃん誘拐事件が思わぬ形で結びついて……。
★読みどころ1)実在の事件を下敷きにした誘拐捜査の様子
作中で吉夫ちゃん誘拐事件が起きるのは物語の半ばだが、そこから物語の本筋。昭和38年に起きた「吉展ちゃん誘拐事件」をベースに、犯人像や動機、被害者の年齢や環境は変えながら、事件の進行と警察の捜査は当時の様子が再現される。ケータイもネットもNシステムもDNA鑑定もない時代の警察小説は読み応え充分。と同時に、妙に現代と重なる部分がある。それは「通信網と交通網の発展が、犯罪と捜査と報道を変えた」ということ。どういうことかというと……。
★読みどころ2)昭和の描写
警察に抵抗する活動家の若者とか、夜行列車や青函連絡船の描写とか、米屋でプラッシーを買うといった日常の描写に、完全な昭和が再現されている。
★読みどころ3)犯人と警察の人間ドラマ
犯人像は完全に著者のフィクション。人はなぜ罪を犯すのかをテーマに、犯人の悲しい過去が描かれる。同時に、絶対に逮捕するという警察の執念の捜査はまるで松本清張の小説を読んでいるかのよう。犯人と刑事の心の交流が染みる。
今年を代表する犯罪小説。

奥田英朗『罪の轍』
新潮社から1944円で販売中です。

 
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