上田早夕里『リラと戦禍の風』

多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N / カルチャー

2019年上半期ベスト!

★内容紹介
舞台は第一次大戦下の欧州。
シャンパーニュの西部戦線にいた若きドイツ兵のイェルクは、悲惨な戦いの中で次第に心が麻痺していく。ある日、彼の近くで砲弾が炸裂。死ぬ、と思ったとき、彼は不思議な人物に助け出された。交戦地区にふさわしくない、しゃれたいい身なりをした穏やかで気品のある紳士。次にイェルクが目を覚ましたとき、彼は清潔で快適な館の中にいた。
曰く、伯爵は四六〇年も生き続けている魔物で、イェルクの精神を半分だけ連れてきた。今ここにいるイェルクは伯爵が作った仮の体であり、実体は残った半分の精神とともに今もシャンパーニュの塹壕にいる。二体の記憶は夢を通して共有される。また、精神だけの存在となったイェルクは他人の内部に入り込むことができる──と。そんな虚体のイェルクに、伯爵はリラという少女の護衛を依頼するが……。
★読みどころ1)人間の多面性。
なぜイェルクの半分だけを助けたか。イェルクの中には、戦争は嫌だという半分と、仲間を見捨てて逃げられないという半分があり、そちらの半分は連れて来れなかった。戦争を嫌がる半分をなくした実体のイェルクは、清々しく戦いに挑んでいく。他にも、ひとりの人間にはいろんな面があり、それは戦時と平時でも違う。それが寄り合わさったものが人間であるというメッセージ。
★読みどころ2)なぜファンタジーか。
物語のテーマは、なぜ戦いはなくならないのか。それを探るために不死の魔物を登場させ、400年にわたるヨーロッパの戦争の歴史を見せる。また、精神の存在となって他人の中に入れるイエルクは、敵国であるフランス人の中に入ったり、生活が脅かされる農村の女性の中に入ったりして、いろんな味方を届けてくれる。

・ファンタジーだからこそ書けるリアルがある、重厚で骨太な歴史ファンタジー。

上田早夕里『リラと戦禍の風』
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