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井上ひさし『國語元年』

2019年03月28日(木)

カルチャー
★内容紹介
・1985年にNHKで放送されたドラマの脚本。
 舞台は明治7年。中央集権の新時代が始まったということで、
 文部官僚・南郷静之助は「全国統一話し言葉」制定を命じられる。
 ところがこの南郷家、当主の静之助は長州出身だが、妻と舅は薩摩弁、
 使用人は岩手の遠野弁と津軽弁、江戸山手の武家出身と下町出身、
 書生は名古屋弁という方言の坩堝だった。さらには会津出身の強盗が入ったり、
 京言葉の客が来たり……。まずは家の中で話し言葉統一のヒントを探ろうとするが、
 家内統一もできないのに、全国統一話し言葉なんて果たしてできるのか?

★読みどころ(1)方言の違いがめちゃくちゃ面白い!
 色紙を買ってこいと言ったつもりが、江戸下町出身の女中に伝言させたら火消しを
 買ってきたり、強盗が「金を出せ」と言ってるのが通じなかったり、
 ふんどしを意味する言葉が全員違っていたり。
 共通語というもののなかった時代のコミュニケーションがとても興味深い。

★読みどころ(2)言葉はアイデンティティ
 人は言葉によって考え、コミュニケーションをとる。話し言葉を統一するということは
 言葉を奪うということであり、その人の根元を否定することに通じる。
 静之助はいろんな地方の言葉を混ぜて共通語を作ろうとして、そこに会津の
 言葉も入れた。すると上司から「賊軍の言葉をつかうのか」と叱られるシーンがある。
 過去、戦争中に占領した地域の人に日本語を強制したり、
 沖縄返還後に琉球言葉をやめる教育がなされたりしたことへの皮肉。
 愛国心と国粋主義の履き違えに対する強烈な風刺が込められている。

・平成は不景気や災害など辛い出来事も多かったが、明治以来初めて戦争のない時代だった。
 新たな時代、言葉を狩るような時代にだけはなってほしくないと思い、この本を紹介しました。
井上ひさしさんの『國語元年』
新潮文庫から497円で販売中です。

 
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