★内容紹介
・定年まであと4年となった吉岡。一人娘も独立し、あとは妻とふたり、
ゆっくり過ごせればと考えている。
・ところが近所のアパートに住む高齢者の夫婦が、相次いで入院することに。
この夫婦は猫を飼っていて、誰もいない部屋で、猫をどうするかという問題が起きる。
大家は迷惑がり、警察や区役所も担当ではないという。
締め切った部屋で、放っておくと猫は死んでしまう。
・成り行きで「当座だけ」猫の世話をすることになった吉岡とその妻。
飼い主と相談して貰ってくれる人を探すことにしたのだが、13歳の老猫で
まったく貰い手は現れず……さてどうなる?
★読みどころ(1)高齢化と残されるペットの現実問題
いざこういう事態が起きると、周囲の人は何をしなければならないか、
何ができて何ができないかが具体的に書かれている。たとえば猫嫌いの
大家は保健所に持っていけ、というが、いざ保健所に電話すると……。
★読みどころ(2)軽やかでユーモラスな筆致
吉岡夫妻の奮闘ぶりはとてもたいへんで同情することしきりだが、
それを決して暗くならず、猫の可愛らしい描写もふんだんにあって、
とてもユーモラスに描いているので読み心地がいい。
★読みどころ(3)猫騒動を通して見えてくるもの
本書を読むと、親しくもない人の猫を預かり、振り回される吉岡夫妻が
貧乏くじを引いているように見える。本来なら、放り出しても責められない。
人が困っているとき、手を差し伸べるかどうかの境目はどこにあるのか。
それは、他の誰が責めなくても「自分で自分が許せるかどうか」ではないか。
・ペットを飼っている人だけでなく、すべての人に読んでほしい物語。
藤谷治さんの『猫がかわいくなかったら』
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藤谷治『猫がかわいくなかったら』
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