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梶尾真治『黄泉がえり』

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1999年に出たSF小説。2003年に映画化されたが、原作とはかなり違います。
★内容紹介
・舞台は熊本。ある日、熊本市で死んだ人が次々に帰ってくるという現象が起きる。
死んだときの年齢のままの帰還に、遺族は戸惑ったり驚いたりしながらも喜ぶ。
役所には死亡届の取り消し願いが殺到し、行政は大混乱に陥る。
ところが黄泉がえった人々には、ある共通点があった……
いったいこの現象は何なのか、黄泉がえった人々はどうなるのか。
★読みどころ
(1)死者が戻ったさまざまな家族を描いたオムニバス
いろいろな黄泉がえりのケースが並行して描かれる。35歳で死んだ夫が
還暦を過ぎた妻のもとに戻ってきたり、会社の社長が戻ってきたり、
いじめで自殺した中学生が元のクラスに戻ってきたり。
いなくなったと思っていた人が戻ったとき、単純な喜びだけではない、
さまざまな人間ドラマが描かれる。また、周辺の人だけでなく、こういうとき
行政や法律はどう対応するのか、というシミュレーション小説でもある。

(2)今読むと、刊行時に読んだのとでは感想が変わる。
物語の中盤で、3月25日に地震が起きて黄泉がえりの人が再びいなくなる、
という噂が流れる。その地震というのが、
「3月25日に益城町下を走る布田川活断層の熊本市寄りの地域で震度7」。
2016年4月に熊本大分地震を起こした活断層と一致している。
もちろん偶然だが、今読むとドキっとする。と同時に、救われる。
実際の熊本大分地震もこうだったらよかったのにと思えて、
あの災害の記憶を浄化してくれる。
刊行時に読むのと、熊本大分地震後の今読むのとでは、感想が異なるはず。
物語は、読む時期によって読者が受け取るものが変わるという好例の一冊。

梶尾真治『黄泉(よみ)がえり』新潮文庫から767円で販売中です。

 
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