400年前より現代に蘇った戦国武将の集団・名古屋おもてなし武将隊が、ラジオ界の天下一を目指す番組。
今回の“出陣”は、織田信長、豊臣秀吉、陣笠隊の足軽・踊舞(とうま)です。
本日は新企画『太閤さんの猿芝居』の模様をお届けします。
太閤・豊臣秀吉は、人の気持ちを掴むために策を練り、一芝居打って相手を取り込む、言わば“演技派武将”。主君である信長の草履を懐で温めたシーンは、最優秀助演男優賞モノでしょう。
その信長から“猿”と呼ばれた秀吉が、いかに芝居がうまいかを現世の者たちに知らしめるのが、この企画趣旨。決して、ヘタな芝居という意味ではありませんよ。
リスナーから矢文(メール)で募集した数々のセリフを、会話の中でさりげなく織り交ぜる、秀吉のその見事な腕前をとくとご堪能下さい。
らくごのご しばいのい
まず、言ってほしいセリフの候補を、4つ用意しました。
【1】「本能寺の変、光秀は上手くやってくれた」
【2】「なぜ山に登るかって?そこに山があるからじゃ」
【3】「カレーが食べたいなあ」
【4】「それはもちろん信長様が一番好きだから」
これらのセリフを、3人が会話していく中で秀吉がぶっこんでいく訳です。
客席から3つのお題を募り、それらを織り込んで即興の落語をする「三題噺(さんだいばなし)」のようなものですね。
年季の入ったお笑いファンなら『ざこば・鶴瓶らくごのご』を思い出すでしょう。
ここでセリフの補足説明です。
【1】は、天正10年(1582年)6月2日、かの有名な本能寺の変が起こりました。これには、明智光秀を秀吉がそそのかして信長を襲撃させたという"秀吉黒幕説"が存在します。それを踏まえてのセリフです。
【2】は、イギリスの登山家、ジョージ・マロリーの名言から。ただ実際には「なぜあなたはエベレストに登りたいのか?」という問いに「そこにエベレストがあるから」と答えており、「そこに山があるから」というのは誤訳です。山一般について言ったことではありません。
【3】は、今の秀吉が2年前に現世に蘇った時、インタビューで「食べてみたい名古屋めしは?」と聞かれ「カレー」と答えたことに由来します。
【4】は、特に出典はなく、単純に言ってほしいセリフだと思われます。
カレーだけに、華麗に決めた?
ただフリーに会話をするのも漫然としてしまうので、何かテーマを決めて話していきます。最初のトークテーマは「名古屋めし」。
「名古屋めしと言えば味噌カツや手羽先の他に、『ココイチ』というカレー屋さんがあるんですなあ」と話す秀吉。早速【3】のお題をクリアするかと思いきや…
「ココイチの発祥は一宮市でございますので、名古屋めしではございません」と秀吉を制する踊舞。
厳密に言えば、ココイチことカレーハウスCoCo壱番屋は、現在の本社が一宮で、第1号店は愛知県西枇杷島町(現・清洲市)にできました。
思わぬ邪魔が入った秀吉。しかしめげずに「ああ、そうなのか?ただ、今間違って話しておったけど、なんかカレーが食べたいなあ」と勢いでねじ込むのでした。
強引なドリブル突破だけでは…
まだ序盤なのに、かなり精神力が削がれてヘトヘトの秀吉。トークテーマは「戦国時代の着物」に変わります。
南蛮渡来の物を好んで取り入れた信長は、洋服を着ていたと話します。秀吉は、金の糸をあしらった着物を着ていたとか。更に早口でまくしたてる秀吉。
「ただ、山を登る時に、着物はとても歩きづらいんですなー。でもどうしても登りたくなってしまう。で、わしの家臣が言ったんですわ。『秀吉様、なぜそんな着物姿で山を登られるんですか?』と。そこでわし、こう言ってやったんですわ。『なぜ山に登るかって?そこに山があるからじゃ!!』」
「ちょっと独りよがりじゃなー。功を焦ったな」と釘を刺す信長。話の展開が強引すぎましたね。
会話は言葉のパス交換です。勝ちを急いで1人だけで決めようとせず、信長や踊舞をうまく使って、会話を巧みに誘導するパスワークも一つの手なのです。
見事なゴール前のアシスト
ここで、刺激を与えるために新しくセリフを追加することに。
【5】「月に代わっておしおきよ」
アニメ『美少女戦士セーラームーン』での有名な決めゼリフですね。
お次のトークテーマは「温泉」です。秀吉ゆかりの温泉と言えば、兵庫県の有馬温泉が有名ですね。再三この地を訪れては、戦で疲れた心身を癒していたそうです。400年前、大地震で崩れてしまったところを改修した功績により、今でも「太閤の湯」として愛されています。
信長「今でもその湯には秀吉のダシが染み込んでると」
秀吉「もちろん、わしのダシも出ておりますぞ」
踊舞「え?まことですか?それは入りたくないですなあー!」
秀吉「おい!失礼な事を言うな!お主!そういう事を言うと、月に代わっておしおきよ!」
うーむ、これは決まった!…んでしょうか?唐突に月が出てきたような感じですが。しかしそこに踊舞の救いの手が入ります。
「多分、露天風呂だったんではないでしょうか」
「そ、そう、そう!」すかさず乗っかる秀吉。
空に月が見える露天風呂なら、不自然ではありません。月が実際におしおきをするかどうかは別にして。
踊舞の見事なアシストで、なんとかゴールを決めた秀吉。だがかなり心を削られたようです。
超攻撃的猿芝居
「あかん!わし、変な汗かいてきた!でも、あとセリフが2つ残ってる…」
困り果てる秀吉。
「でも、あれですな、もう、本能寺の変、光秀はようやってくれましたな」
雑!!
全く脈絡ないし!微妙にセリフも違うし!
あまりの雑な放り込み方に、逆に大ウケする信長。
「大義である!一番面白かったな!」
「なぜこういう事になったからと言うと、やはりそれはもちろん信長様のことが好きだからです!」
相手の守備が整わないまま、畳み掛けるような波状攻撃で、連続得点。信長も感心しきりです。
組織的猿芝居
この勢いでどんどん得失点差を広げろ!とばかりに、軍師(ディレクター)が更にもう1つセリフを追加します。
【6】「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」
アニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』での名ゼリフ。
「盗むと言えば、石川五右衛門」と、今度は信長がナイスパス。
この場合は、ルパン三世の登場人物"十三代目 石川五ェ門"ではなく、釜ゆでで有名な大泥棒の方です。
ある夜、秀吉の城に忍び込んだ五右衛門。しかし枕元にあった「千鳥の香炉」が非常ベルよろしくチリリと鳴り響き、目を覚ました秀吉がひっ捕らえたという逸話があるのです。
「その時わしはこう言ったんじゃ。
月に代わっておしおきよ!」
なんと、まさかの2度使い。お笑い用語でいう"天丼"です。この言葉が気に入ってしまったという秀吉。使いたくてしょうがなかったのだとか。
「今のは、五右衛門が捕まって、何も盗まれなかったけれども…という流れじゃろ!」
せっかくのパスを、ラインの外に蹴り出されてお怒りの信長。
しかしここで踊舞が華麗に決めます。
「誰もがそういう流れだと思っていたのを、あえて秀吉様が変えてこられた。
我らが、秀吉様に心を盗まれました」
武将隊は個人技だけではない。チームプレイなんだということを教えてくれた放送なのでした。
(岡戸孝宏)
名古屋おもてなし武将隊® 戦国音絵巻
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2017年05月29日21時41分~抜粋