日常にある素朴な疑問・気になって仕方がない「アレってなんで?」といったリスナーから送られた『キニナル』を、番組チームが調査し、さらに詳しい方々に教えていただくコーナー「これってキニナル」。
今回リスナーから寄せられたメールは「イヌの数え方は『頭』なのか、『匹』なのか、どちらが正しいのか」というものでした。1/23は「動物の数え方、『頭』と『匹』の違いは?」というキニナルを調査するため、中央大学の飯田先生にお話を伺いました。聞き手は丹野みどりです。飯田先生は日本語の意味論という分野で、言葉の意味や使い方を調べて辞書にまとめていらっしゃる先生です。
動物を数える時、"頭"と"匹"はどう使い分ける?
犬の数え方
まずイヌは「1頭、2頭…」と数えるのか、「1匹、2匹…」と数えるのか、果たしてどちらが正しいのでしょうか?飯田先生に伺いました。
「『頭』も『匹』もどちらも使いますが、基本的には『匹』です。ただ『頭』を使う場合もあります」
先生によれば次のような場合に「頭」を使うそうです。
・大型犬
・警察犬や盲導犬、麻薬探知犬といった人間が訓練したイヌ
・生物学的に貴重・稀少なイヌ
・ペットクリニックやペットショップなどで扱われているイヌ
イヌに関しては基本的にはこのように使い分ければいいようです。
「頭」と「匹」には歴史の違い
それではイヌ以外の動物を数える時にはどのように使い分ければよいのでしょうか?
「基本的には人間を基準にして数え分ければいいと思います。人間より小さい生き物は1匹2匹でいいと思います。『匹』はすごく数える対象が広くて、昆虫やバクテリア、魚類やカエルのような両生類など、幅広く数えます。一方で『頭』は、人間が抱きかかえるのにちょっと大きかったり、ずっと大きい動物に対して使い、対象は大きなほ乳類やワニなどの爬虫類に限られます」
「人間と比較すればわかりやすいですよね」と丹野。
それでは、そもそも「頭」や「匹」にはどのような意味があるのでしょうか?
飯田先生によれば、「匹」は古くから使われている数え方で生き物全般に使い、「頭」は比較的新しく、明治時代からの数え方だそうです。
江戸時代までは、動物は大きさに関係なく「1匹、2匹」で数えていました。「匹」は人間以外の生き物全般を数える、幅広い用法を持つ助数詞だったそうです。
ではなぜ明治時代になって『頭』という数え方が出てきたのでしょうか?
「明治時代になって、西洋から広く文献が入ってきたんですね。英語で生物学などの論文を読む人たちが、研究の対象とか動物園で飼育する動物を"1 head, 2 heads..."といった動物の『あたまかず』を数える記述が多数あり、"head"を和訳して作ったのが『頭』という助数詞です」
このように「頭」が助数詞として専門家によって最初に使い始めたのは、だいたい明治15年くらいのことだそうです。
また、飯田先生が日本最古の動物園である上野動物園の開園当時の記録を調べたところ、水牛や熊を「頭」で数える例が出てきたそうで、その辺りが「頭」の誕生の瞬間じゃないか、と教えていただきました。
「文学の世界ではどうなのでしょうか?」丹野が飯田先生に伺います。
「専門家の人たちが使っていた言葉が一般の人に広まるには、少し時間がかかるんですね。明治30年頃になると、夏目漱石の作品で、牛や馬が『頭』で数えられている場面があります。おそらくこの頃から、大きさで数え分ける習慣が定着したのだと推測します」
数え方は奥が深い
動物の数え方の意外な例はあるんでしょうか?
「よく『蝶々を1頭って数えるのは正しいんですか?』って聞かれることがあるんですよね」と飯田先生。
詳しくお話を聞くと、蝶々を「頭」で数えるのは間違いではないそうです。
というのも、前述のイヌのように生物学的に貴重だったり、コレクターの間で高価だったりする場合は、一部の人たちの間で「1頭、2頭…」と数えるそうです。でも私たちが普段数える時は「1匹、2匹…」で正しいかな、とのこと。
ここまでお話を伺ってきて、まだ他にも意外な数え方がないか気になった丹野。
「あと何か面白い数え方ありますか?」と飯田先生に質問すると、
「例えば今、節分の季節ですよね。鬼って皆さんどう数えます?」と飯田先生から逆に問いかけられます。
「鬼!?鬼退治の鬼…、匹かな?」言葉に詰まる丹野。
「鬼っておもしろくて、人間に悪さをする鬼は『1匹、2匹…』って数えるんですけれども、心を入れ替えて人間と仲良くなった鬼は『1人』と数えたりします。私たちは自分たちにとってどういう存在かということで、数え方を調節して、数え方を見ることで、"友だち"なのか"敵"なのかわかるので、すごく便利なものかなと思います。
使いこなすと非常に面白いニュアンスとか表現ができると思います」
人間との関係性までもが透けて見えるわけですね。意外と奥深い「数え方」の世界でした。
今回の動物の数え方に加え、「1回/1度」「1軒/1戸」など、258種類の助数詞の使い分けのポイントが解説されている飯田先生の著作、『日本語の助数詞に親しむ ~数える言葉の奥深さ~』が販売されています(東邦出版刊・税別1,400円)。
こちらも是非ご覧ください。
(ふで)
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