あなたの心を開放する、ゆったりと流れる大人の時間『後藤浩二 ジャズ魂』。
毎週日曜の夜10時半、ジャズピアニスト・後藤浩二のコレクションから名盤はもちろんのこと、隠れた素晴らしい演奏をご紹介。
今回はワン・アンド・オンリーのジャズハーモニカ奏者でギタリストのトゥーツ・シールマンス(Toots Thielemans)を紹介します。
伝説のハーモニカ奏者 トゥーツ・シールマンスを偲ぶ
巨星堕つ!トゥーツの足跡を振り返る
伝説のハーモニカ奏者で世界的巨匠とも言われたトゥーツ・シールマンスは昨年の8月、94歳で亡くなりました。
共演したミュージシャンのみならず、世界中のファンから「トゥーツ」と呼ばれ親しまれました。
トゥーツは、1922年 (大正11年)ベルギーのブリュッセル生まれ。
ジャンゴ・ラインハルトのギターに刺激されてギターを始め、1940年代にギタリストとして活動を開始します。
やがてハーモニカも演奏するようになりました。
1950年にベニー・グッドマンのヨーロッパ・ツアーにギター、ハーモニカ、口笛で参加したことでブレイクし、ヨーロッパ、アメリカなどで活躍します。あの「モダン・ジャズの父」と呼ばれるサックス奏者のチャーリー・パーカーともツアーをしました。
その後まもなくアメリカに移住し、53年から59年までジョージ・シアリング・クインテットに在籍しました。
ギターを弾きながらハーモニカを吹くスタイルは、ジョン・レノンにも影響を与えたと言われています。
ギターより口笛の方が上手い?
トゥーツと言えばハーモニカが代名詞ですが、ピュアな響きを持つ口笛とギターで同じ音階をなぞるユニゾン奏法も有名です。
口笛を本格的に始めたきっかけが、ジョージ・シアリングのバンド在籍中に、メンバーから「ギターより口笛の方が上手いな」と言われたことだとか。
1962年には自身の口笛をフィーチャーした「ブルーゼット」がヒット。楽屋でトゥーツが口笛を吹いていると、一緒にいたジャズ・バイオリニストのステファン・グラッペリに「なんて素晴らしいメロディーなんだ!楽譜にしておくといい」と言われたことから、このヒット曲が生まれたそうです。
名作あるところトゥーツあり
その後も映画『真夜中のカウボーイ』のテーマやクインシー・ジョーンズのアルバム『愛のコリーダ』でハーモニカを担当。
さらに作曲家として、あの『セサミストリート』のテーマ曲も(もちろんハーモニカも)手掛けています。
またジャズのみならずビリー・ジョエルなど、様々なジャンルのアーティストとの共演で世界的な活躍を見せます。
中でも話題になったのが、ピアニストのビル・エヴァンスとの共演。
晩年のビルのセンチメンタルな傑作アルバム『Affinity』でも、トゥーツのハーモニカが冴えに冴えています。
日本にも多くのファンが
晩年の演奏活動は、老いてますますパワフルになっていきます。
ヨーロッパの信頼するメンバーと精力的に世界を周り、日本へもたびたびやってきました。最後の来日は2011年10月でした。
実はトゥーツ、ドクター・ストップを受けて2006年末から演奏活動を休止していましたが、翌年奇跡的に復帰したのです。
2011年に発表したアルバム『European Quartet Live』は、トゥーツ・シールマンス・ヨーロピアン・カルテットが2006年~2008年に行った公演から収録音源を選んでアルバムにしたもの。
公演中はアルバムをリリースする予定はなかったそうです。
本作のプロデューサーでベース奏者のハイン・ヴァン・ダ・ヘインはこう語ります。
「この作品にはエゴがない、あるのは音楽だけだ」
トゥーツが亡くなった日、盟友クインシー・ジョーンズが ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたコンサートをトゥーツに捧げ、「私のソウルに永遠の穴を残していった」と語りました。
第1次・第2次世界大戦を経験し、人種を超えて人々に共感を与え、そしてビリージョエルなどのポップスターたちとも共演し、誰からも愛されたトゥーツは、まさにジャズ界を超えたレジェンドでした。
ご冥福をお祈りします。
M1 トゥーツ・シールマンス『The Windmills of Your Mind』から「Footprints」
M2 ビル・エヴァンス『Affinity』から「I Do It For Your Love」
M3 トゥーツ・シールマンス『European Quartet Live』から「Bluesette」
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