12月15日に創立70周年を迎えたCBC。
4夜にわたる創立70周年特別番組『ルーツ』では、ゆかりの出演者を招いてお話を伺います。
12月16日の放送には、当代随一のしゃべり手・古舘伊知郎さんがCBCラジオ初登場。
元CBCアナウンサーの石井亮次とともに、なめらかな話芸を繰り広げました。
「スポーツ実況といえば古舘伊知郎」と世間に言わしめた“ルーツ”、プロレス実況に迫ります。
オーソドックスな実況アナだった5年間
テレビ朝日のアナウンサー時代、古舘さんの「スポーツ実況人生」はプロレスからスタートしました。
しかし、古舘さんが一世を風靡するスポーツ実況アナウンサーになるまでには、意外にも5年の月日がかかったといいます。
スポーツ実況で古舘さんが一番最初にメインで担当したのは、ご存じ「プロレス実況」でした。
始めからあの古舘節で世間を魅了していたわけではなく、元々はオーソドックスな実況をしていたそう。
「昔のラジオの中継を聴くと、いまだに羨ましいなと思うよ。野球だってバーっとしゃべるじゃないですか」と古舘さん。
「ラジオだったら『慶応が1回から5回まで無得点。立教が1回から4回まで無得点。まったく立教は林に抑えられておりまして、まだランナーが1人も出ておりません。5回の裏、先頭バッター4番長嶋、第8号ホームラン…』と、こういう風になるんですよ」
往年の東京六大学野球の実況で名調子を披露します。
「カオスなら言葉もカオスでいいよな」
「でもテレビは『"ご覧の通り"だろ!お前!』って怒られるんですよ」と嘆く古舘さん。
同じくプロレスで「ヘッドロック一閃。さぁロープギアだ!」と古舘さんが実況すると、「観ればわかるんだから!一呼吸も二呼吸も間をあけるんだ!」と上司から怒られていたというのです。
「燃える闘魂。アントニオ猪木が登場してまいりました」のような、しっかり、きっちり、ゆっくりとした実況が求められていた時代。
古舘さんは「もっとウワーッ!っとやりたい」というフラストレーションを抱えたまま、5年間は正統実況を続けていたのです。
「ラジオにすごい憧れがあった」と古舘さん。
殻を破るきっかけとなったのは、アントニオ猪木さんを始めとしたスターレスラーが多く活躍していた新日本プロレスの試合でした。
リング上も場外乱闘も全てがカオス。
その様子を見て「カオスなら言葉もカオスでいいよな」と思い至ったといいます。
「タイガーマスク四次元殺法」の秘話
例えば、ショッピングピンクのハッピを着て、竹刀を持って出てくる悪役レスラー、まだら狼 上田馬之助さん。
通常であれば「まだら狼 上田馬之助。タイガー・ジェット・シンと共に入ってまいりました」と落ち着いた口調で語らねばなりません。
しかしここで古舘さんは「このショッピングピンクは、まさにメンズノンノでいうなら春先のファッションカラー!」と言い放ったのです。
「そうすると絶対ウケるんだ、一部に」と古舘さん。
タイガーマスクの素晴らしい空中殺法の実況はこうです。
「タイガーマスク、四次元殺法!」
実際はもちろん三次元ですが、古舘さん的には「トップロープを含めると四次元に見える」。
これが古舘さんの本音でしたが、結果アナウンス部長に即呼ばれ「バカ野郎、お前は!四次元じゃねぇだろう!三次元だよバカ!何が四次元殺法とか言ってんだ!」と叱られるはめに。
それでも懲りない古舘さんは、翌週の愛知県体育館でも「四次元殺法!」を繰り返していたのです。
当時について「楽しかったですね。怒られ続けてやってました」と振り返る古舘さん。
「数字の辻褄が合わない!」
石井が強烈に覚えているのは、古舘さんがアンドレ・ザ・ジャイアントに付けたキャッチフレーズ。
2メートル23センチ、236キロという巨漢のアンドレを、古舘さんは「人間山脈」「一人民族大移動」と表していました。
このフレーズが世間から飽きられてきたと感じた古舘さんは、別の表現を思いつきます。
「今、アンドレ・ザ・ジャイアント入場して参りました。『1人で入場してきた』と単体でいうにはあまりにも大きすぎます。かといって『複数で入場』というには数字の辻褄が合わない!」
石井のお気に入りのフレーズですが、実は古舘さん的には「ウケなかったバージョン」なんだそう。
古舘「これに引っかかってくれたの?」
石井「もう大好きで!」
古舘「東大阪のガソリンスタンドの?」
「東大阪市のガソリンスタンドの息子として生まれたわたくしは。古舘伊知郎に憧れてアナウンサーを目指したわけであります」と流れるような古舘節を披露。
『古舘以前・古館以降』みたいなものがあって。古舘さんが時代を1個作りましたもんね」と大絶賛の石井でした。
(minto)
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2020年12月16日19時12分~抜粋