郡上八幡である。
前回その地名を記しましたので、郡上八幡の話を。
もう何年も行っていないけど、郡上八幡。好きなんですよ。
ラジオの中継の仕事で、1回行っただけですけど、楽しかったですね。仕事だけど楽しい。最高じゃないですか。
名古屋で新幹線を降りて、名鉄バスセンターからバスに乗って行きましたけど、途中、長良川SAだったかな。休憩してお菓子食べて、郡上八幡着いて、翌日の中継の打ち合わせをして、ホテルに行く道すがら、ソフトクリーム買って食べて、そんな写真しかないのだ。
仕事は郡上市で食品サンプル作り体験。食品サンプルの歴史は郡上八幡から。まずは宮川のほとりで生中継をし、そしてサンプルのお店へ。
中継はつつがなく終了し、お土産を買いましょうと。中継前の事前取材でも、カゴいっぱいにストラップやキーホルダーになった食品サンプルを、数万円分も買っている海外からの観光客の方に会いました。
話には聞いていたが、訪日外国人客にとって食品サンプルというのは、日本の土産ものとして評判だとか。つい最近も、東京の合羽橋(浅草の西にある料理道具・厨房機器の店が並ぶ街)でも、そんな光景を見ました。
で、我々も買いました。ストラップ類を。スマホ時代の今、携帯のデコレーションはケースがほとんどですが、当時はまだガラケーの時代だからね。ストラップ、アクセサリー類じゃない、マグネットタイプのものも買ってしまいました。楽しい土産に財布も緩むのです。
ちなみに、食品サンプルの相場は、本物の料理のお値段の10倍ということを聞きました。つまり、レストランのカレーライスだったら800円とか1,000円とか、それくらいですね。だからカレーライスの食品サンプルは8,000円から10,000円という話です。ゼロがひとつつきます。
東京に帰ります。郡上八幡からバスに乗り名古屋へ。あとは東京に帰るだけ。新幹線に乗ってお疲れ様の乾杯。朝から生中継、だから昼のビールは美味い。ウトウトしているともう品川。仕事でなくまた行きたいなぁと思うのです。
買った土産は、スタッフへ、家族へ。スタッフにはマグネットになったクッキーの食品サンプルを。
これをスタッフルームのテーブルの真ん中に、お皿に乗せて置いておきました。まぁ、みんな引っかかる。郡上の食品サンプル、精巧です。不思議なもので、手に持った時点で皆さん気づかないんですね。みんな口にした時点で「あっ!」と。プロデューサー、ディレクター、アナウンサー…みんな引っかかりました。
郡上はすごい。みんな騙しちゃうんだから。オフィスの野呂圭介は「大成功」のプラカードを掲げっぱなし。偽ケータリング。現場でのお菓子選びは重要なのに、俺は何をやってんだっつーの!
そして数日後、他番組のエライさんからお呼び出し。「あの食品サンプルを買ってきたのはお前か。騙されたぞ。会社でくだらないことやるな!」と、叱られました、ガチで。大人なのに。アンタ何が会社でくだらないことだ、騙されたから怒ってんだろうバーカと反論はしません。大人だから。大人はいたずらしない。
家にも同じような土産を買いました。マグネットになったクッキーや焼き鮭の切身の食品サンプル。そして同じことをすると、家族もひっかかりましたねぇ。家庭内野呂圭介。こっちは叱られることなく、大笑い。マグネットは冷蔵庫のとこに使われ、ガスの請求書やデリバリーピザのメニューが貼られるように。
で、そこから数ヶ月。食品サンプルマグネットでいたずらをしたことなどはとうに忘れた頃。普段、あまり家で食事を取らない私が珍しく早く帰宅し、晩ごはんを食べることになり、食卓に座りました。母親の作った料理が並び、いただきますと。そして箸をつけた時、私は異変に気付きました。
私の前に並んだ焼き鮭の切身…あの時の食品サンプルでした。
それは陶器の、長方形の皿にのり、横に新生姜が置かれた美しいものでした。どう見ても食べ物です。
やられた。
逆襲された。
母親は、いつか私に仕返しをしてやろうと、ずーっとその時を待っていた。早い時間に帰宅し、晩飯を家で食べると言った私の連絡を受け、食品サンプルと見た目や大きさが似たような紅鮭を探し求めたそうです。
「デパートまで行って鮭の切身を買ってきたわよ」。
バカじゃねーのか!還暦過ぎて何やってんだうちの母親は!
やるじゃねーか郡上!ヤベェよ食品サンプル!
えー、皆さん、食品サンプルを使ったいたずら、安易に真似しちゃいけません。やられた側は心底根にもつのです。
河野虎太郎
放送作家。東京在住。先日「創業平成二十七年。ですが、焼き鳥のたれは昭和三十年からの継ぎ足しの店です」と看板に書かれた焼き鳥店を見つけてしまった。伝統って何さ。
前回その地名を記しましたので、郡上八幡の話を。
もう何年も行っていないけど、郡上八幡。好きなんですよ。
ラジオの中継の仕事で、1回行っただけですけど、楽しかったですね。仕事だけど楽しい。最高じゃないですか。
中継先は財布が緩む
名古屋で新幹線を降りて、名鉄バスセンターからバスに乗って行きましたけど、途中、長良川SAだったかな。休憩してお菓子食べて、郡上八幡着いて、翌日の中継の打ち合わせをして、ホテルに行く道すがら、ソフトクリーム買って食べて、そんな写真しかないのだ。
仕事は郡上市で食品サンプル作り体験。食品サンプルの歴史は郡上八幡から。まずは宮川のほとりで生中継をし、そしてサンプルのお店へ。
中継はつつがなく終了し、お土産を買いましょうと。中継前の事前取材でも、カゴいっぱいにストラップやキーホルダーになった食品サンプルを、数万円分も買っている海外からの観光客の方に会いました。
話には聞いていたが、訪日外国人客にとって食品サンプルというのは、日本の土産ものとして評判だとか。つい最近も、東京の合羽橋(浅草の西にある料理道具・厨房機器の店が並ぶ街)でも、そんな光景を見ました。
で、我々も買いました。ストラップ類を。スマホ時代の今、携帯のデコレーションはケースがほとんどですが、当時はまだガラケーの時代だからね。ストラップ、アクセサリー類じゃない、マグネットタイプのものも買ってしまいました。楽しい土産に財布も緩むのです。
ちなみに、食品サンプルの相場は、本物の料理のお値段の10倍ということを聞きました。つまり、レストランのカレーライスだったら800円とか1,000円とか、それくらいですね。だからカレーライスの食品サンプルは8,000円から10,000円という話です。ゼロがひとつつきます。
精巧と成功
東京に帰ります。郡上八幡からバスに乗り名古屋へ。あとは東京に帰るだけ。新幹線に乗ってお疲れ様の乾杯。朝から生中継、だから昼のビールは美味い。ウトウトしているともう品川。仕事でなくまた行きたいなぁと思うのです。
買った土産は、スタッフへ、家族へ。スタッフにはマグネットになったクッキーの食品サンプルを。
これをスタッフルームのテーブルの真ん中に、お皿に乗せて置いておきました。まぁ、みんな引っかかる。郡上の食品サンプル、精巧です。不思議なもので、手に持った時点で皆さん気づかないんですね。みんな口にした時点で「あっ!」と。プロデューサー、ディレクター、アナウンサー…みんな引っかかりました。
郡上はすごい。みんな騙しちゃうんだから。オフィスの野呂圭介は「大成功」のプラカードを掲げっぱなし。偽ケータリング。現場でのお菓子選びは重要なのに、俺は何をやってんだっつーの!
そして数日後、他番組のエライさんからお呼び出し。「あの食品サンプルを買ってきたのはお前か。騙されたぞ。会社でくだらないことやるな!」と、叱られました、ガチで。大人なのに。アンタ何が会社でくだらないことだ、騙されたから怒ってんだろうバーカと反論はしません。大人だから。大人はいたずらしない。
忘れた頃の悲劇
家にも同じような土産を買いました。マグネットになったクッキーや焼き鮭の切身の食品サンプル。そして同じことをすると、家族もひっかかりましたねぇ。家庭内野呂圭介。こっちは叱られることなく、大笑い。マグネットは冷蔵庫のとこに使われ、ガスの請求書やデリバリーピザのメニューが貼られるように。
で、そこから数ヶ月。食品サンプルマグネットでいたずらをしたことなどはとうに忘れた頃。普段、あまり家で食事を取らない私が珍しく早く帰宅し、晩ごはんを食べることになり、食卓に座りました。母親の作った料理が並び、いただきますと。そして箸をつけた時、私は異変に気付きました。
私の前に並んだ焼き鮭の切身…あの時の食品サンプルでした。
それは陶器の、長方形の皿にのり、横に新生姜が置かれた美しいものでした。どう見ても食べ物です。
やられた。
逆襲された。
母親は、いつか私に仕返しをしてやろうと、ずーっとその時を待っていた。早い時間に帰宅し、晩飯を家で食べると言った私の連絡を受け、食品サンプルと見た目や大きさが似たような紅鮭を探し求めたそうです。
「デパートまで行って鮭の切身を買ってきたわよ」。
バカじゃねーのか!還暦過ぎて何やってんだうちの母親は!
やるじゃねーか郡上!ヤベェよ食品サンプル!
えー、皆さん、食品サンプルを使ったいたずら、安易に真似しちゃいけません。やられた側は心底根にもつのです。
河野虎太郎
放送作家。東京在住。先日「創業平成二十七年。ですが、焼き鳥のたれは昭和三十年からの継ぎ足しの店です」と看板に書かれた焼き鳥店を見つけてしまった。伝統って何さ。