CBC論説室の北辻利寿特別解説委員がさまざまな事柄のはじまりをレクチャーする『多田しげおの気分爽快!!~朝からP•O•N』(CBCラジオ)の「日本はじめて物語」。
9月14日のテーマは、前回のボールペンに続いて「ボールペンのインク」を取り上げました。
開発から30年を経て花開いた"消せるインク"。「フリクション」誕生秘話
インクのことも話したい
北辻「もう、話し足りなくて」
前回はボールペンそのものを取り上げました。
戦後、進駐軍の兵隊が持ち込んだボールペン。太くて使いにくいものだったのが鉛筆型になり、透明で中の芯が見えるようになりました。
さらに、三色ボールペンを筆頭に、インクもゲルインクで40色とカラフルになり、しかも書いた後滲まないという進化を遂げています。
今回はボールペンのインクが主役です。
前回はボールペンそのものを取り上げました。
戦後、進駐軍の兵隊が持ち込んだボールペン。太くて使いにくいものだったのが鉛筆型になり、透明で中の芯が見えるようになりました。
さらに、三色ボールペンを筆頭に、インクもゲルインクで40色とカラフルになり、しかも書いた後滲まないという進化を遂げています。
今回はボールペンのインクが主役です。
紅葉を見て閃いた
北辻「地元の愛知県名古屋市で、戦後間もない1948年(昭和23年)、名古屋市昭和区にパイロット万年筆のインクを製造する工場ができたんです」
その2年後には「パイロットインキ」という名前で、会社として独立。
現在は「パイロットコーポレーション」として世界で展開しています。
1966年(昭和41年)、そのパイロットインキに1人の社員が入って来ました。名前は中筋憲一さん。
岐阜大学で工業化学を専攻した技術者。新しいインクが作れないかと、開発意欲満々だったんだとか。
名古屋市郊外の愛知県豊田市足助に香嵐渓という紅葉の名所があります。
夏は緑一色、秋になると紅葉で真っ赤に染まります。
中筋さんはこの紅葉を見て、熱によって色が変わるインクはできないか?と閃いたそうです。
その2年後には「パイロットインキ」という名前で、会社として独立。
現在は「パイロットコーポレーション」として世界で展開しています。
1966年(昭和41年)、そのパイロットインキに1人の社員が入って来ました。名前は中筋憲一さん。
岐阜大学で工業化学を専攻した技術者。新しいインクが作れないかと、開発意欲満々だったんだとか。
名古屋市郊外の愛知県豊田市足助に香嵐渓という紅葉の名所があります。
夏は緑一色、秋になると紅葉で真っ赤に染まります。
中筋さんはこの紅葉を見て、熱によって色が変わるインクはできないか?と閃いたそうです。
メタモカラー完成
開発に乗り出した中筋さんは、3つの薬品を使ったそうです。
1つは色の元となる、色の成分を持った薬品。
2つ目が色を出す薬品。
そして3つ目が、この2つを温度によってくっついたり離れさせたりする薬品。
3つの薬品を、1つのカプセルの中に入れて、ドライヤーで温めたり、冷蔵庫に入れたりして試行錯誤。
上は50~60度、下は3~6度ぐらい。50度ぐらいの温度差で、色が変わるインクを作り出しました。
ラテン語で変化を意味する「メタモルフォーゼ」から、このインクは「メタモカラー」という名付けられました。
1975年(昭和50年)に特許も申請しています。
1つは色の元となる、色の成分を持った薬品。
2つ目が色を出す薬品。
そして3つ目が、この2つを温度によってくっついたり離れさせたりする薬品。
3つの薬品を、1つのカプセルの中に入れて、ドライヤーで温めたり、冷蔵庫に入れたりして試行錯誤。
上は50~60度、下は3~6度ぐらい。50度ぐらいの温度差で、色が変わるインクを作り出しました。
ラテン語で変化を意味する「メタモルフォーゼ」から、このインクは「メタモカラー」という名付けられました。
1975年(昭和50年)に特許も申請しています。
筆記具には不要の技術
北辻「ところが、パイロット社の主力商品である万年筆には使われなかった。なぜかというと万年筆は書き残す道具ですよね。
温度差によって色が変わってしまっては、全く役割が果たせない」
メタモカラーは、筆記具以外に使われることになりました。
例えば、コップに花咲かじいさんと枯れ木の絵が描かれてて、冷たい水を入れると温度差で花が咲くというもの。
また衣をつけたような白いエビを、冷たい水の入った鍋に入れると、てんぷらのようにこんがり黄金色に揚がる、というおもちゃでは女の子が大喜び。
北辻「こどもたちには大ウケだったらしいんですけどね」
温度差によって色が変わってしまっては、全く役割が果たせない」
メタモカラーは、筆記具以外に使われることになりました。
例えば、コップに花咲かじいさんと枯れ木の絵が描かれてて、冷たい水を入れると温度差で花が咲くというもの。
また衣をつけたような白いエビを、冷たい水の入った鍋に入れると、てんぷらのようにこんがり黄金色に揚がる、というおもちゃでは女の子が大喜び。
北辻「こどもたちには大ウケだったらしいんですけどね」
きっかけは文化の違い
そんな時、世界に展開しているパイロットコーポレーションのヨーロッパ代表であるフランス人幹部から、中筋さんに「ある色から別の色に変わるのではなくて、ある色から透明にすることはできないか?」と持ち掛けられたそうです。
すなわち「消せるボールペン」です。
このリクエストの背景にあったのは、日本とフランスの文化の違いにあります。
日本の学生は主に鉛筆を使います。
一方でフランスなどヨーロッパは、小学生でも万年筆やボールペンを使って書き、鉛筆を使う文化がないそうです。
ボールペンで書き損じた場合は、線を引いたり、インク消しや修正液を使う、もしくは砂消しゴムを使って訂正しますが、やはり見苦しいもの。
そこで消せるボールペンがあれば、という希望でした。
すなわち「消せるボールペン」です。
このリクエストの背景にあったのは、日本とフランスの文化の違いにあります。
日本の学生は主に鉛筆を使います。
一方でフランスなどヨーロッパは、小学生でも万年筆やボールペンを使って書き、鉛筆を使う文化がないそうです。
ボールペンで書き損じた場合は、線を引いたり、インク消しや修正液を使う、もしくは砂消しゴムを使って訂正しますが、やはり見苦しいもの。
そこで消せるボールペンがあれば、という希望でした。
温度差を広げろ
温度差で、色が変わることを利用して、消せるボールペンを作るのですが、その温度差をさらに広げなくてはいけませんでした。
夏に消した文字が、冬に出てきたら大変です。常温で戻ったら消し意味がありません。
ボールペンの背に付いたラバー、いわゆる消しゴムで擦って、65度以上の摩擦熱で消えます。
さらにマイナス20度まで冷やさないと、浮かび上がらないというインクを開発しました。
日常的に氷点下20度にいくことはまずありません。
ここに「消せるボールペン」が完成します。
英語で「摩擦」を意味する言葉から、このボールペンは「フリクション」と名付けられました。
夏に消した文字が、冬に出てきたら大変です。常温で戻ったら消し意味がありません。
ボールペンの背に付いたラバー、いわゆる消しゴムで擦って、65度以上の摩擦熱で消えます。
さらにマイナス20度まで冷やさないと、浮かび上がらないというインクを開発しました。
日常的に氷点下20度にいくことはまずありません。
ここに「消せるボールペン」が完成します。
英語で「摩擦」を意味する言葉から、このボールペンは「フリクション」と名付けられました。
売り上げも大逆転
2006年1月にフランスをはじめ、ヨーロッパの店頭に並んだ「フリクション」は大ヒット。
今や全世界で30億本というメガヒット商品になりました。
中筋さんがメタモカラーを完成させてから、30年近い歳月が流れていました。
「世界中をあっと驚かせた逆転の発想によって生まれた消せるボールペン。『ボールペンはじめて物語2』のページには、日本の文化の歩み、その確かな1ページが、ここだけは決して消えることのないインクで書き込まれています」
摩擦が起きそうなほどの熱量で締めくくる北辻委員でした。
(尾関)
今や全世界で30億本というメガヒット商品になりました。
中筋さんがメタモカラーを完成させてから、30年近い歳月が流れていました。
「世界中をあっと驚かせた逆転の発想によって生まれた消せるボールペン。『ボールペンはじめて物語2』のページには、日本の文化の歩み、その確かな1ページが、ここだけは決して消えることのないインクで書き込まれています」
摩擦が起きそうなほどの熱量で締めくくる北辻委員でした。
(尾関)
関連記事