見ざる言わざる…の本当の意味
この猿の彫刻ですが、日光東照宮の中でも神厩舎という馬小屋の屋根の下、長押(なげし)の上に彫られています。
実は猿は3匹だけではありません。8面にわたって掘られている猿は全部で16匹もいて、「見ざる聞かざる言わざる」の「三猿」はその一部。しかも、その16匹には意味があるそうです。
加藤さん「簡単に言いますと、人生を表しております。まず1場面は赤ちゃんの時代。子猿がお母さん猿を心の拠りどころとしまして、お母さんを下から熱い眼差しで見つめている彫刻が、はじめの場面です」
次の場面は幼少期なのですが、そこで早くも「三猿」が出てきます。
「見ざる聞かざる言わざる」と聞くと、自分の都合の悪いことは耳を傾けないといった、わがままなイメージか、あるいは、他人に対して拒絶するといったイメージがあります。
どちらにせよ、こどもにはしっくり来ないような気がするのですが、実は本来の意味は少し違うようです。
加藤さん「こどもの時期というのは、何にでも興味が湧くもので、多感な時期でもありますから、悪いものを見たり、言ったり、聞いたりしないように、素直な心で育っていくようにという、教育論のようなものがここに表されていると言われております」
多田「『見ざる聞かざる言わざる』って言うのは、世間のいろんなものから目をそらすと解釈する人もいるでしょうけど、ちょっと違うんですね」
こどもに対して、一般的に言われている悪いことを遮断するというのは、過保護なことであって、免疫が付かなくて困るのではないかという意見もあるでしょう。
しかし、情報が洪水のように流れてくる現代においては、あらためて大事なことなのかもしれません。
猿は人生訓を示している
まだこの時点で猿は4匹ですので、まだまだ先があります。
他の猿については、大人になって恋愛をして結婚し、こどもができたという彫刻もありますし、その前には挫折を味わうというものもあるそうです。
よく知られている三猿は、あくまでも16匹の中の一部というわけですね。
多田も「日光東照宮にお参りして、三猿だけじゃなく16匹全部を見て、"人生はかくあるべきなんだなあ"と、教えてもらわないかんわけですね」と、日光東照宮への参拝を勧めました。
最後に加藤さんは、「ご自身に重ねていただくと、より楽しんで見ていただけるかなと思っております」とまとめました。
16匹を見ながら『自分はいま人生の中でどの状態にあるのか』ということを考えたり、『あの時はこんな風に過ごしていた』などと、思い返してみたりするのも良さそうですね。
(岡本)