多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

"引っ越し魔"から"引っ越し難民"まで。時代で変わる引っ越し事情

3月の最後の週が一年で一番の引っ越しのピーク。この週末ぐらいが一番混むらしいです。昔風に言うと、「宿替え」、「転宅」です。ところが今年は「引っ越し難民」というキーワードが注目されています。
「引っ越し難民」とは、引っ越し業者が受注を減らす傾向にあり、希望通り引っ越しできずにいる人のことです。

3月26日『多田しげおの気分爽快!!』は、古今東西の引っ越し事情についてCBC論説室の石塚元章特別解説委員が解説しました。

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日本特有の引っ越し事情


多田「どこかの新聞が使ったら、もう『引っ越し難民』という言葉が出来ちゃいましたね」
石塚「最近は、困るとたいがい後ろに"難民"をつけるんです」

「引っ越し難民」が出る背景には日本特有の事情があります。新卒生が一括採用されるので、春に新入社員になりますし、大学も春に入学です。本人の気分で引っ越すわけではなく、やむを得ず引っ越さなければならないという人が固まっているわけです。

「引っ越し難民を何とかするためには、分散化が良いと言うんですが、言うは易しで、そうそう自分の気持ちだけで『他の日にします』とは言えない事情があるわけです」と石塚。

引っ越し魔


石塚「歴史上『引っ越し魔』という人たちが大勢いました。例えば葛飾北斎。いろんな説がありますが93回説が一番定着しています。誰が数えたんだっていう話ですけど」

描いて気に入らないのは、そのままばら撒くように捨てていたそうです。だから自分の家が汚れたら引っ越し。

石塚「片付ける暇があったら芸術に勤しみたいということで引っ越して、新しい家に越してきたら、家の中がすごく汚れていた。なんでこんなに汚れてるんだと怒ったら、前に自分が住んだところだった、というエピソードもあります」

また、かの音楽家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンも70~80回は引っ越したと伝えられています。
引っ越しの理由は、掃除が嫌いだったという説の他に「近所の人に音を聞かれて盗作されるんじゃないか」という恐怖があったという説があります。全曲聞かせないために、曲が完成する前に引っ越していたそうです。

昔は簡単に引っ越せた


北斎やベートーヴェンなど「引っ越し魔」が出る背景には、当時は、今よりずっと引っ越しが簡単だったということが言えます。
まず家財道具が少なく、たいがい借家です。引っ越し魔の中には、自分で一戸建てを建てて25年ローンを払っている人たちはいません。

今のように水道局、ガス会社、電力会社に問い合わせることも一切なく、身一つでポッと家を変わればOK。まさに宿替え。

石塚「江戸時代は大八車ひとつで良かった。上方は特に"裸貸し"と言ったそうです。居抜きみたいなもので、家財道具から畳まで、全部取っ払っちゃったものを賃貸で貸すわけです」

家財道具などの中身は、その時だけ、買ったり借りたりしたそうです。次にまた引っ越す時は、それを売り払ったり返却します。

江戸時代には「損料屋」というレンタル業者があったそうです。最近は損料屋がテーマの小説、山本一力さんの損料屋喜八郎シリーズも人気です。

石塚「中身は褌まで借りていたという話もあります。落語で『粗忽の釘』、同じ話を上方では『宿替え』と言いますが、これも導入のところで風呂敷に全部家財道具を突っ込んで、動こうと思ったら担げない。よく見たら柱を一緒につないでた、というところがあります。
お笑いですけど、風呂敷だけで引っ越せたという当時のスタイルを表しているんですよね」

実は新しい引っ越し業者


石塚「時代が引っ越しを変えてきました。昭和になって経済成長の時代を迎えるとサラリーマンの時代です。自分の気分だけで引っ越すという、引っ越し魔の人たちがやれたようなことは、もうできません。義務としての引っ越しになってきます」

しかも経済成長でみんな豊かになってきて、家財道具がどんどん増えてきます。そうなると自分と家族、同僚やご近所が手伝うぐらいでは引っ越せません。そこで、昭和になると運送会社に引っ越しの荷物を頼むようになりました。

石塚「戦後は大手の日本通運などに引っ越しを頼むという時代がありました。そのうちオイルショックなどで経済危機があり、運送業者には大変苦しい時代が来ました。そこで中小の運送会社が生き残るために目をつけたのが、引っ越し専業のトラックです」

1970年代オイルショック以降、中小の運送業者が生き残りとして始めたのが引っ越し業者の始まり。それが当たり、今では大手の引っ越し業者も増えました。実は引っ越し業者は比較的新しい業態と言えます。

石塚「梱包するところまで手伝ったり、女性ばっかりの引っ越しチームを作るなど、今度は引っ越し業者間でのサービス競争が激しくなってきました。今は働き方改革とか人手不足の問題で、また変わろうとしています」

時代で変わる引っ越し事情


日本人の引っ越し回数は平均すると生涯で5~6回だそうです。

石塚「それに対して、アメリカは19~20回。日本は先進国の中では引っ越し回数が少ないんです。なぜかと言うと、現代の日本人には、家とか住居に対する特有の考え方があるんです」

中古住宅より新築という、持ち家に対する執着が強く何十年ローンで家を買います。そうすると、なるべくそこに居たい。気分で引っ越すなんてことはあり得ないわけです。会社の転勤でない限り、自分の家を守るという姿勢です。
欧米の場合は、しばらく住んで気分が乗らなかったら引っ越したりするので、中古住宅の流通がすごく盛んです。日本でも、家を所有するという意識に変化が起こると引っ越しも変わってくるでしょう。

「車がシェアという形が出てきているように、持ち家よりもシェアするという考え方が増えてくるかもしれません。歴史を見てくると、新しい条件で、引っ越しのやり方とか回数とかタイミングとか変わる気がしますよね」と締める石塚元章でした。
(尾関)
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2018年03月26日07時20分~抜粋

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