2月22日放送の『多田しげおの気分爽快!!』、書評家であり文芸評論家の大矢博子さんが書物を紹介する「私のポン棚」です。毎月、最終木曜日は過去の名作を紹介します。
平昌オリンピックも真っ盛りということで、今回はスキーに関するミステリー、東野圭吾の『鳥人計画』の紹介です。
作家東野圭吾さん
東野圭吾は1958年大阪生まれ。大阪府立大学工学部を卒業の後、愛知県の自動車関連会社に就職。勤務のかたわら、江戸川乱歩賞に投稿を続けデビュー。その後、専業作家になりました。
デビューが1985年で、1999年に『秘密』でブレイクするまではあまり知られていない作家でした。
多田「今は作品数も多く、直木賞もとっていますが、最初何年間は書いてもあまり売れてなかったんですね」
ナンバー1ジャンパーが死亡
今回オススメの『鳥人計画』は1989年の作品。30年近く前、東野圭吾が知る人ぞ知る存在だった頃の作品です。
現在はスキーをモチーフにした作品も多く映画にもなりましたが、これが東野さん初のスキーミステリーです。
話は、日本のナンバー1スキージャンパーが練習中に死亡するという事件から始まります。それが毒殺だとわかりますが、どのタイミングで飲まされたかわからない。
当時、不振が続く日本のジャンプ界にあって唯一世界を狙える選手だったのに、どうして彼が殺されなければならなかったのか、というミステリーです。
読みどころ①凝った構成
まず、読みどころは、2転3転する展開です。
実は物語の半ばで犯人がわかって逮捕されてしまいます。普通であれば、ここでミステリーが終わります。
そこから密告者は誰で、どうして自分が犯人だと知られたのか、この"犯人"が推理するという凝った構成です。
読みどころ②ジャンプ選手の描写
もうひとつの読みどころが、当時のスキー選手ジャンプ選手の描写です。アスリートの心情やリアルが非常によく描かれています。
謎解きに関わるので具体的には言えませんが、メダルを獲るために人はどこまでやっていいのか、科学技術にどこまで頼っていいのかが描かれます。
読みどころ③ジャンプの進化
これは1989年、冬季五輪ではカルガリーとアルベールビルの間に描かれた作品です。
スウェーデンのある選手が、世界第一人者のジャンパー・ニッカネン選手(フィンランド)を抜いた描写があります。その選手はスキー板を大きく開いて飛びました。
多田「今はスキー板をハの字型に前を開いて飛ぶ。その方が空気抵抗をたくさん受けて飛べる。72年札幌オリンピックの時、笠谷選手などは全員板を揃えて平行にして飛んでましたね」
このハの字飛行はそれまでの常識を覆すもので、長く飛べる科学的根拠がまだない、と書かれています。
作中でも触れられていますが、昔のスキー界ではジャンプ中に手を前に出していたそうです。
ある学者の「胴体に手を付けた方が良い」との提言にスキー界は反発したのですが、やがて提言どおりのスタイルが主流となっていきました。『鳥人計画』は、競技自体の進化も伺える内容となっています。
オリンピック開催中のいま読むと、歴史も一緒にわかり、さらに楽しくなること間違いなしです。
(みず)
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