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お仕事小説『ひよっこ社労士のヒナコ』が、面白い3つの理由

『多田しげおの気分爽快!!』の木曜日は、書評家・文芸評論家の大矢博子さんがおすすめの一冊を紹介する「私のPON棚」です。

12月14日のおすすめは、水生大海(みずきひろみ)さんの『ひよっこ社労士のヒナコ』。
企業に勤めている人、人を雇っている人に、ぜひ読んで欲しいお仕事ミステリーだそうです。

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社労士とは?


社労士とは社会保険労務士という国家資格、またはそれに従事する人をいいます。具体的な仕事としては、企業で働く人の健康保険、厚生年金の計算をしたり、書類作成、手続き、また労働管理や年金の相談にのったりします。

こういった仕事は大きな会社なら、総務の中にできる人がいたりしますが、法律が関係して難しいので外注に出すこともあり、そういうときに社労士が活躍します。仕事としては、かなり細かい仕事です。

主人公は若き新米社労士ヒナコ


主人公は26歳の女性、朝倉雛子(ヒナコ)。彼女は大学を出たが正社員で採用されず、派遣社員として働いていました。が、一念発起して、3年かけて試験に挑戦し、社会保険労務士の資格を取り、社労士事務所に採用されました。

新米社労士のヒナコがいろいろな現場で出会うさまざまな事件や問題を、ミステリータッチで書いた連作短編集です。読みどころは大きく三つあります。

①身近な問題が出てくる


読みどころは、第一に、勤め人なら身近な問題がたくさん取り上げられるところです。

例えば、第一話は、無断欠勤が続いた女性社員が登場します。
上司から「どういうことだ、出るなりやめるなり決めなさい」と言われた彼女は、「それなら辞める」と答え、それっきり来なくなります。
話し合いの結果、月末付けで退職となりますが、有給が残っていたので、辞めるまで欠勤していた給与を払えと言います。これが認められるかどうか、が読みどころです。

第三話はITの社長が就業規則を作ろうと、主人公のもとへ相談に訪れます。
独身ばかりの若い会社で、一年も休むと情報についてこられなくなるから「育児休暇の制度は作らなくていいよね」と社長が言います。
そして実際に未婚で妊娠した女性社員が出現。この社長が「なんとか穏便にやめさせられないか」と相談に来ます。ヒナコは「この社長バカなの」と思いつつ、どう解決するか。

他にもブラック企業の問題、パワハラに耐えかねてうつ病になったのでは、という社員の話など、「最近、よく聞くわ」という話がたくさん出てきます。

②背後にうごめく人間模様


この物語の本当の面白味は、それぞれの事件の背後にある人間模様です。

ヒナコが解決のために調査すると、「最初の話を違うぞ」「社長の言ってたことと違うぞ」「この人、何か隠しているっぽいぞ」ということがどんどん出てきます。これらが謎解きに巧みに絡みます。

謎は最終的にはすべて解決しますが、その会社が抱えている根本的な問題は解決されません。
例えば、社長が日頃抱いている女性蔑視、パワハラ社員、ブラック企業の問題など…。大きな社会の問題は、新米社労士がひとりでがんばっても、それ自体はどうにもならないのです。

③ヒナコの成長物語


三番目の読みどころは、この物語がヒナコの成長物語でもあるところです。

謎は解けても、結局この会社の問題は解決できないまま。それでは自分が社労士としてできることは何か、自分は何のために仕事をしているのか、という疑問が残ります。

自分も一歩ずつ成長していかなければならない。だから「ひよっこ」社労士が主人公となっているわけです。

働いている人のおすすめ


法律などの知識や労務の情報も詰め込まれており、こんな法律もあるんだと感心したり、驚くようなルールなどが登場します。だから働いている人、人を雇っている人、これから就職する人にぜひ読んで欲しいミステリーです。

水生大海さんの『ひよっこ社労士のヒナコ』は文藝春秋から発売中です。
(みず)
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2017年12月14日08時31分~抜粋

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