多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

逆年代香港警察社会派ミステリ『13・67』

『多田しげおの気分爽快!!朝からP・O・N』、木曜日の「暮らしに鉄分」のコーナーは、書評家・文芸評論家の大矢博子さんが新作書籍を紹介する「私のポン棚」です。

11/9の放送で取り上げたのは「翻訳ミステリ」ジャンルからの1冊。

今まで翻訳ミステリといえば、ほぼ英語圏の小説が中心でしたが、ここ数年は北欧ミステリがブームとなっていました。
そして今年の注目は中国語圏のミステリ、いわゆる「華文ミステリ」です。

ということで今回は、香港・台湾で活躍する作家・陳 浩基(ちん こうき)さんの『13・67』(いちさん ろくなな)を紹介します。

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珍しい逆年代記ミステリ


陳浩基さんは、日本の大御所ミステリ作家・島田荘司さんが手掛けた、アジアの新人作家発掘プロジェクトでデビューを果たしました。

日本への作品紹介は今回で2作目となります。

この『13・67』の舞台は香港。
主人公のクワン刑事は、その卓越した推理能力から「天眼(てんがん)」というニックネームで呼ばれるほどの人物。

このクワン刑事が半世紀(2013年~1967年まで)の間にかかわった6つの事件について書かれた小説で、題名の「13」は2013年を、「67」は1967年を表しています。

通常の年代記の形式でいくと、1967年から現在までを書くことが普通ですが、この小説は逆。
あえての「逆年代記」、リバースクロニクルの連作短編であるというところが大きな特徴です。

脳波で謎解き


読みどころの1つとして大矢さんがあげたのが「6つの短編が謎解きミステリとして非常にトリッキーでおもしろい!」
ということ。

1話目、クワン刑事はすでに退職後の身で、さらに末期がん患者として登場。
昏睡状態で明日をも知れないという状態のクワン刑事の病室に、長年パートナーを組んでいた若い刑事がとある事件の容疑者を集めます。
クワン刑事は「すでに意識がないように見えるが、実は耳は聴こえている」ということで、脳波の測定を利用してクワン刑事に謎解きをしてもらう、という突拍子もない設定。

クワン刑事の頭に電極を付けると、パートナーの刑事が尋ねることについて脳波で「イエス・ノー」を示します。
これで、犯人がわかっていくという非常に凝った話です。

「質問も難しいですよね」と感心した様子の多田しげお。

この6つの短編で大矢さんが一番「スゴイな!」と思ったのが、中国返還間近の1997年が舞台の第3話。

クワン刑事はこの頃、ベテランとして脂の乗り切った時期でした。

護送中の囚人が共犯者の助けを借りて、車で逃走してしまいます。
その車が事故にあうものの、囚人は車に乗っておらず「あれ?どこへ行ったの?」という事件。

「これが、最後まで読むと『あっそういう事だったのか!』と膝を打つような秀逸なトリック」と大矢さん。

絶対第1話に戻って読む!


6つの短編を読み進めると、6話目に1967年のまだ若きクワン刑事が登場。
「どうしてこの物語が逆順に書かれたのか」という事が最後にわかるような作りになっているのです。

「そうしたらもう一回現在に戻って、第1話を読みたくなる。っていうか絶対読む!くらいの仕掛けがあります」と、大矢さんは力強く断言します。

「そのあたりがあの日本人の。あるいは今までたくさん親しんだアメリカ人のミステリー作家とは、ちょっとセンスが違うぞという感じですか?」という多田の問いに「そうですね、この発想はすごいですね。先に出てきた人物が、後の短編で若い時代が出てくるというのが面白いです」と、太鼓判を押す大矢さん。

4つの側面が楽しめる小説


もう1つの読みどころとしては、6作通して読んだ時に「香港の現代史」が非常に良くわかる作りになっていること。

香港は中国の一部でしたが、長年イギリスに割譲されていた、とても複雑な歴史を持つ場所。
特に、返還前の香港警察には汚職が蔓延していました。

上層部の顔色を見ながら無事に勤め上げて、年金をもらえればいいという考えの警察官が多くなっていた時代。

その各時代ごとに香港警察が抱えたジレンマがどの短編でも登場し、あくまでも政府のためではなく、市民のために正義を守るということにこだわった警察官の物語であるということです。

「読んでスカッとしますね」と多田。

香港の社会派小説であり、現代小説でもあり、警察小説でもあり、香港ミステリでもあるという贅沢な1冊。
ぜひ手に取って、その興奮を味わってみてください。

『13・67』陳 浩基 天野健太郎訳(文藝春秋)1,998円
(minto)
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2017年11月09日08時33分~抜粋

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