11月7日、青酸化合物による連続殺人事件の罪に問われていた筧千佐子被告に死刑が言い渡されましたが、判決では主文が後回しになりました。
翌8日の『多田しげおの気分爽快!!』では、この「主文の後回し」について、あすなろ法律事務所弁護士の國田武二郎さんが解説しました。
聞き手は多田しげおです。
重大判決で「主文の後回し」が起こる理由
普通は主文が先
そもそも「主文」とは何でしょう?
ドラマなどで「被告人を懲役10年の刑に処す」と裁判長が読み上げる、これが主文です。主文とは確定した刑の結論です。
前述の死刑判決では、この主文の前に判決理由から読み上げられました。どうして主文が後回しになることがあるんでしょうか?
単なる慣例だった
「判決する時には、裁判書きを作らなければいけないんですが、これは主文があって、理由があるという構成になっています」と國田武二郎さん。
「主文を先に読まないといけない、という規則はありません。あくまでこれは慣例です。判決書きに、先に主文を書いてるものだから、一般的には主文を先に読むわけです」
判決理由を聞いてほしい
今回に限らず、死刑判決の場合は「主文後回し」という言い方を聞くんですが、これは裁判長の判断で主文を後回しにしているわけですか?
「そうです。その理由ですが、例えば極刑を言い渡す場合。仮に無罪を争っていたとします。
そこへ、いきなり、極刑の死刑という主文が先に読まれますと、言われた被告人は、そのとたんに精神的に不安定になって、頭がパニック状態になる可能性があります」
また、判決理由が耳に入らなかったり、場合によっては法廷で倒れたり、あるいは法廷で大声を上げて暴れるという事態が想定されるそうです。
裁判所としては、刑の言い渡しだけでなく、どうしてこのような主文の結果になったのか、まずは被告に理由をよく聞いてほしいという考えがあるそうです。
そのため冷静に聞いてほしい場合、裁判官は先に理由についてじっくりと話をしたり、その後で結果を言い渡すということがあるんだそうです。
死刑以外でもある、主文の後回し
裁判長の判断で「主文の後回し」が決まるということは、死刑という極刑以外でも、同様のケースがあるんでしょうか?
「あります。例えば、懲役2年執行猶予3年という、執行猶予の判決をする場合では、主文を後回しにして、理由から読む裁判官もいます」
やはり、軽い系の場合も、執行猶予にする理由をよく理解してもらいたい、裁判所は被告を社会更生させたいんだということを理解してもらいたいからだそうです。
裁判官も工夫している
執行猶予付きの判決の場合、主文を先に言うと、こんなこともあるそうです。
「執行猶予を先に言ってしまうと、もうそれが嬉しくて、そっちのほうにばかり頭が行って、なぜ自分が執行猶予になるのか、執行猶予期間中に何をしなければいけないのかということを、全く忘れてる被告人がいるんです。
ですから、必ずしも極刑を言い渡す場合じゃなくても、普通の懲役刑を出す場合でも、先に理由を述べて、よく審理の過程を被告人に聞いてもらいたいという裁判官は、工夫をして主文を後回しにするという場合があります」
「全ての判決言い渡しで、先に判決理由を言った方が、理解しやすくて、良いような気がしますけどね」と多田しげお。
それに対して國田さんはこのように答えました。
「だいたい検察官の求刑で、自分にどれくらいの刑が言い渡されるか、予測がつきます。それに対して裁判所が下した判断が主文、判決です。
なので、被告人としても、その理由から入って判決を聞いたほうが、どうして自分がこういう結果になったのかが、わかりやすいかもしれませんね」
こんな時も主文後回し
地裁、高裁、最高裁と、どのレベルの裁判所でも、主文の後回しが行われるそうです。
「これは簡易裁でも、そういう裁判を行う裁判官もいます」と國田さん。
さらに、こんな場合にも主文の後回しが起きるそうです。
上級庁は、被告人や検察官が控訴したり上告したのを、棄却するのか破棄するのかを、まず判断しなければいけません。
「棄却」とは、上告した当事者の言い分を認めないこと。「破棄」とは、上級裁判所が原裁判所の下した判決を認めないことです。
そこで破棄となると、こんなことが起きます。
例えば、原審が有罪で有期懲役の判決がでました。ところが原審の裁判所の結果を破棄して、高裁で死刑にする場合があります。このパターンを「破棄自判」と言います。
「破棄自判して死刑だという場合は、なぜ原審の、一審の有期懲役刑を破棄して死刑にするかと言うことを、よく理解してもらうために、主文を後回しにして、先に理由を述べるという事例も見られます」
なぜ、こういう結論に至ったかの理由を、まずは、ちゃんと聞いてくださいね、というような最終結論の場合ほど、主文が後回しになるようですね。
(尾関)
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