この時期に大活躍する防水スプレー。
靴、鞄、衣服にサッと吹きかけると、水を弾いてくれるので玄関先に置いてあるという方もいるのではないでしょうか。
またアウトドアが好きな方だと、テントやタープ、ザックカバーに防水スプレーをかける方もいると思います。
ところがこの防水スプレー、吸引事故が相次いでおり、日本中毒情報センターなどが、注意を呼びかけているようです。
詳しいお話を愛知学院大学客員教授、斎藤勝裕先生に伺いました。
吸引事故続出?防水スプレーの思わぬ盲点
防水スプレーの正体はあのフライパンと同じ
防水スプレーの成分は何でしょう?
「2、3種類ありますけれども、主成分としてはフッ素樹脂です。これはフライパンなんかに塗ってあるテフロンのようなものです」
料理がこびりつかないテフロン加工のフライパンをイメージするとわかりやすいです。防水スプレーで弾かれた水滴は転がりますね。
「あるいはシリコン樹脂なんかも使われますし、それからキャンプで使うテントの場合だと、一種の石鹸ですね。そういったものが使われています」
シリコン樹脂といえば、車、床など、いろんなものに使われるワックス全般に使われています。さらに水を弾くイメージが沸いてきます。
肺の中で酸素が弾かれる
フッ素樹脂を、防水スプレーによって、鞄や衣服に吹きかけます。そうすると衣服の表面では、何が起こるのでしょう。
「ハスの葉っぱの上に、水を乗っけるとコロコロと転がりますね。あれはハスの葉の表面に、細かい毛が無数に生えてるんですね。それと全く同じことが起きます。衣服に付いた、フッ素樹脂のこまかい粒の上に、水が乗っかるわけです。これが、いわゆる『水を弾く』ということです」
では、不幸にして防水スプレー(フッ素樹脂)を吸い込んでしまったら、人間の肺の中では、どんなことが起こるんでしょうか?
「肺は細胞で出来ているわけです。その細胞が直接、空気と触れ合うことによって、空気の中の酸素を取り込むことになるんです。しかし、その細胞の表面に細かいフッ素樹脂の粒が付くと、酸素を取り込むのが難しくなります」
ハスの葉が水を弾くイメージと同様のことが、肺の中で起きるわけなんですね。
肺の中で、水玉が弾かれるような感じで、酸素が弾かれてしまうというイメージです。
防水スプレーを吸ってしまうと酸欠状態に
酸素を取り込むことができないということは、呼吸困難に陥るんでしょうか?
「そういうことになります。その結果、血液中の酸素が不足します」
まさか、下手すると窒息死なんてことに?
「窒息死まではいかなくても、胸が痛くなったり、あるいは動悸が激しくなったり、頭痛が起きたりします。症状が重い場合には、意識の低下につながります」
万一の時の応急処置は
不幸にして、防水スプレーを吸い込んでしまったら。応急処置はどうすればいいんでしょう?
「とにかく酸素を与えることですが、普通の家庭ではそんなことはできませんから、まずは新鮮な空気を吸わせることです。呼吸がしやすいように着ているものを緩めるとか。家の中ではなく、風通しの良い所へ移動するのも有効です」
肺に入ったら、すぐには取れない
さらに心配なのは、肺の細胞の表面に一度くっ付いてしまった、フッ素樹脂。
「最終的には取れますけれども、そう簡単には取れるものではありません」
外へ出て、新鮮な空気を吸い続けないといけないのでしょうか?
「呼吸のためには必要なことですが、新鮮な空気を吸ったからといって、フッ素樹脂の粒がなくなるというものではありません」
防水スプレーを使うのはとにかく外
吸い込むと危険ということがわかりました。つまり室内での使用は厳禁だということですね。
「もちろんそうです。特に車の中だとか、あるいは浴室。あるいはキッチンなどの、狭くて閉じこもるような場所。そういった空間では絶対使用しない方が良いです」
例えば、靴にちょっと防水スプレーをかけたいなと思っても、げた箱から取り出して狭い玄関でかけずに、ベランダや庭でやる方が賢明です。
もちろん、その場合にもマスクをした方が安心です。
もちろん火気厳禁
スプレーには、火のそばで使うと危険というものがありますが、防水スプレーは?
「火のそばでの使用は、どんなスプレーでもいけません。フッ素樹脂は個体なんです。これをスプレーにする場合には、溶かさないといけません。溶かすということは、有機溶媒を使うということになります。有機溶媒はどんなものでも引火性がありますので、火のそばで使ったらとんでもない話です」
簡単に使っていた防水スプレーですが、かなり注意して使わないといけないんですね。
健康のためには、とにかく吸わないこと。
慌ててお出かけする時でも、玄関先ではなく、ちゃんと外で使用しましょう。
(尾関)
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