健康ライブラリー

健康ライブラリー 2022年3月13日

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●教えてドクター 
★3月のテーマ:特別対談「地域医療と医学教育の課題」

植村和正 先生(愛知淑徳大学 健康医療科学部)
岡崎研太郎 先生(名古屋大学大学院医学系研究科 地域医療教育学講座)
聞き手:後藤克幸(CBC論説室)


後藤:患者さんの生活の場を、教育の場にしていこうとシフトしてきました。地域医療をより重視する医学教育に変換していくという過程をたどってきました。

植村:はい、その通りです。多職種連携というテーマはどの学部の教育課程でも重要視されるようになってきています。私自身は淑徳大学健康医療学部の健康栄養学科にて管理栄養士の養成課程を担当していますが、同学部には視能訓練士、言語聴覚士、臨床心理士を養成するコースもあります。

後藤:超高齢社会の中で在宅医療の必要性も高まり、地域医療というキーワードが全面に出てきていると思います。岡崎先生は名古屋大学で地域医療教育学講座という講座を任されてご活躍されていますが、今の若い人たちが地域医療に向き合うために、どのようなことが重要と、お考えでしょうか?

岡崎:先週の放送でも、多職種連携という言葉が何度か登場したと思います。医療職同士の連携、患者さんやそのご家族との連携、それに加えて患者さんやそのご家族、友人又は仕事関係の方々など地域住民とのコミュニケーションも大事になってきます。このコミュニケーション能力は、座学で講義を受けてもなかなかうまく向上しません。そこで、模擬患者さんの協力や、アートに関わる人、演劇人の方々などの協力を得て、実習形式の教育を行っています。映画を鑑賞してその後にディスカッションをする「シネメデュケーション」を行ったり、よくある診療風景を演劇の形で見せて、それに対してどう思うか、どうしたら良いか、考えてもらったりすることもあります。美術館へ行って絵画や彫刻を鑑賞してディスカッションをするという、「対話型鑑賞」を行っている大学もあります。

後藤:植村先生は、実際の医療現場で、医療専門職同士がお互いを尊重し合いながら、専門的な意見を交わすことの重要性を実感しておられるのではないでしょうか?

植村:私は現在、管理栄養士の育成過程に携わっていますが、コミュニケーション能力の向上というのは大変重要だと思っています。そこで、コーチングやカウンセリングといったものを授業で取り入れるようにしています。

後藤:イギリスの医学系大学では、学生の時から、医学部の学生、薬学部の学生、看護学部の学生、理学療法学の学生、管理栄養学の学生といった、さまざまな専門養成講座の学生が定期的に一同に会して、それぞれの立場で「患者さんにとって最善の取り組みは何か?」といったことをグループ・ディスカッションする教育を取材したことがあります。岡崎先生の学生さんたちの中で「医師の言うことは、聞いておかないといけないな」などと、医学部以外の学部の学生が、医学部の学生に遠慮してしまうことはありますか?

岡崎:あります。やはり複数の学部でのグループワークになると、「司会は医学生がするよね」とか「最後にまとめを発表するのは医学生だよね」というような文化が学生の頃から見られます。これを何とかしたいと思っています。一つの方法としては、私たち医学部教員が、薬学生を連れてきた薬学部の先生や看護学生を連れてきた看護の先生とフラットな関係を築き、お互いを尊重しつつ楽しく授業を行っている様子を学生に見せることだと思います。多職種連携を教員同士が楽しく行っている姿を学生に見てもらい実感してもらうことを意識しています。

後藤:多職種連携に関して、植村先生が今一番力を入れて取り組まれていることはどんなことでしょうか?

植村:多職種のチームといった時に最初にイメージするのは、それぞれの職種における専門性の分担だと思います。その場合、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、言語聴覚士などの間にヒエラルキー(階級制)のような構造ができやすくなってしまいます。ですのでどの職種であっても、「患者さんの生活や治療に重要な役割を担っている」という当事者意識をしっかり持つことが大切です。そのためには他の職種の業務や他の職種の人たちの考えに強い関心を持つことが求められます。そういった心構えを学生のうちからなんとか植え付けたいと思っています。先ほどの岡崎先生のお話しにあった映画や演劇などの芸術は様々な感情を引き起こします。感情が動いたときに同じ感情の動きを共有する機会は、職種が違っても同じパートナーであるという意識を持つことにかなり有効ではないかとお話しを聞きながら思いました。

岡崎:ありがとうございます。芸術の鑑賞は多職種連携教育にも有効ですし、学生さんの想像力を補うためにも有効です。最近の学生さんはとてもスマートで何でもできてしまう方が多いです。すばらしく充実した家庭環境の方々が多く、家庭環境などに恵まれずハンディキャップがある方々と出会ったり、そういった人たちの気持ちを推し量ったりする機会が本当に少ないのが現状です。そうした部分を演劇や小説で補ったり、演じてくださる模擬患者さんにご協力いただいたりして、自分の育ってきた環境とは違う環境にあって、困っている人がいることを何となくでもよいので理解してもらいたいと思っています。医学生の間に、そういった想像力が少しでも育っていけば、理想的だと思います。

後藤:ありがとうございました。これから10年先、20年先の医療がより良い形に発展しますように、よろしくお願いします。

 
 

 
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