健康ライブラリー

健康ライブラリー 2022年2月27日

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●教えてドクター 
★2月のテーマ「地域医療の現状と課題」(3)

北海道 美幌町立 国民健康保険病院 副院長
安井浩樹 先生

聞き手:CBC論説室 後藤 克幸


後藤:地域医療の未来に向けて、先生からご提案がありましたらお話をいただきたいと思います。先生の考える未来の医療とはどのようなものでしょうか?

安井:今まで、情報共有あるいは多職種連携とその教育の重要性についてお話しさせていただきました。その大前提として「どんな未来を生きたいか?」「どんな人生を生きたいか?」または「自分の子ども達にどんな未来を生きてもらいたいか?」といったことを考えるのが必要だと思います。

後藤:健康なうちから色々なことを考えていくということでしょうか?

安井:そうですね。健康なうちにこそ「どんな人生を生きたいか?」ということを考え、「そのためにはどんな医療が使えるのか?」「どんな介護サービスが使えるのか?」といったことを考えるのが大事だと思います。

後藤
:それらを考える時どうしたら的確な情報にたどり着けるのか、アドバイスをお願いします。

安井:例えば「病院を退院して家に帰ったらこんな生活がしたい」というビジョンを持つことが重要です。そしてそのビジョンを主治医や看護師や理学療法士などと共有し、さらにそれを医療者間で共有することにより、患者さんにとって必要な情報が得られることがあります。今は意味のないランダムな情報があふれていて、かえって混乱してしまうことが多いです。「うちのおばあちゃんにはこんな生活をして欲しい」というように考えを明確に持てば、必要な情報を得られやすいと思います。

後藤:そのためには、私たち自身が自分の意見をお医者さんや看護師さんや周りにいらっしゃる介護スタッフにしっかり伝えるということが大事ですね。

安井:私もそうですが自分の意見をはっきり伝えることが苦手な方も多いと思います。普段から医療関係者や主治医や看護師とコミュニケーションをとることによって、「それはこういうことだよね」と情報共有を進められる可能性があります。周りの医療スタッフの皆さんとオープンに、にぎやかに情報共有をすることを押し付けるわけではありません。ただ意図せず周囲との交流が無くなってしまった場合は、様々な社会的サポートがありますので、主治医の先生などに相談していただければと思います。
いずれ人間は年をとり、今までできていたことができなくなったりします。場合によっては自由に出歩くことが困難になることもあります。そういう中でも「こういうことは続けていきたい」「この友人との交流は大事にしたい」といったことを普段から情報として伝えておいていただくことが大事です。

後藤:実際に先生が体験された患者さんやそのご家族とのコミュニケーションの中から、先生ご自身が教えられたような事例はありますか?

安井:ある事情で2年以上入院されていた患者さんがみえました。私が引き継いで主治医となったのですが、通常は皆さん1週間から2週間で退院する病院でしたので、カルテを見て唖然としました。そこでスタッフにも色々事情を聞いてみたのですが、「ご家族が家に引き取らないからではないか」という話でした。「主治医が変わったので来週退院です」というわけにはいきませんので、その患者さんとは2カ月位かけてコミュニケーションをとりました。そして「今、自分が長期入院していることをどう思うか?」とか「今後どうしたいか?」といったことを少しずつ聞き出すことができました。すると驚くことに、その患者さんは実は家に帰りたかったんだということがわかりました。家族に色々心配をかけることが負担で入院を続けていたということでした。次にご家族を呼んで事情をお尋ねしたところ、ご家族も実は家で過ごして欲しいと思っていることがわかりました。それまでその情報が多くの医療スタッフに共有されていなかったということに驚きました。その情報をまず皆に伝えて、治療を通院で続けられるように協力して欲しいということで看護師をはじめ医療スタッフで1つのチームを作りました。そしてチームで退院に際しての計画を作ってもらったところ1週間ほどでまとまり、それから2週間後に試しに外泊を行いました。それから約3週間後に無事に退院することができました。これは主治医が退院させようという方針を持っていなかったということから起こった問題です。またご家族にも「退院したくない」という誤った意思が伝わっていたことも問題でした。

後藤:まさに、情報を共有する中で、本当の思いが伝わり、新しい計画が動きだしたという事例ですね?

安井:退院して通院するという新しい計画が動きだしさえすれば、医療スタッフの皆さんはプロですから、すぐにそれぞれ実際の行動に移すことができます。それを経験により強く感じました。

後藤
:医療スタッフ同士、そして患者さんやそのご家族との間で大切なことを共有できる環境をどう作るか、ということが未来の医療の課題でしょうか?

安井:そうですね。職種や立場などを超えて情報共有をし、患者さんやそのご家族が目指す人生の目標に向かって(終末期の心づもりも含めて)みんなで生きるのが未来の医療だと思います。

 
 

 
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