●教えてドクター |
北海道 美幌町立 国民健康保険病院 副院長
安井浩樹 先生
聞き手:CBC論説室 後藤 克幸
後藤:日本の医療が直面しているさまざまな問題を解決するための課題について教えて下さい。
安井:課題を大きく3つあげたいと思います。1つ目は情報共有の課題、2つ目は多職種連携の課題、3つ目は教育の課題です。
後藤:1つ目の情報共有の課題。具体的には?
安井:誰と誰との情報共有か?というお話になります。先週も申し上げたように、この番組自体が医療と社会をつなぎ、情報を共有するという目的があると思います。ただ現場で必要なものには医療者間での情報共有も含まれます。職種と職種の間や施設と施設の間の情報共有です。また患者さんの家族や社会の中の一般の人達との情報共有もすべて重要だと感じています。
後藤:情報がなかなか共有されていないという現状があるということでしょうか?
安井:そうですね。例えばこれだけの情報化社会ですのでグーグルなどで検索すれば様々な情報が入ってきます。しかし、地域の薬局の薬剤師と「どんな方がどんな薬を使っているか」という情報を共有するシステムが動いていないのが現状です。
医師にとって、欲しい情報が共有されていないという現状があります。また、患者さんやご家族に必要な情報も、十分に共有されていないのではないかということも思います。
後藤:例えばどのような情報でしょうか?
安井:私の失敗事例なのですが、ある患者さんの担当になった時のことです。その患者さんには20何種類ものお薬がでていました。そこで私が「様子を見ながらお薬を少しずつ減らしていきましょうね」とお声がけしたところ、その患者さんは非常にご立腹され、「患者の薬を減らすとは何事だ!もうお前の診療は受けない」と言われてしまいました。
後藤:お年寄りの場合、様々な症状を併せ持っていることが多く、それぞれの専門の先生からお薬を処方されますと、多すぎる薬の問題も生じてしまいますね。
安井:薬が多すぎるのは体にも良くないし、飲み間違いの元でもあります。それぞれの薬には当然目的としている効果がありますので、何を目指しているのかを考えた時に、飲む薬を選ぶということは間違っていません。ただそういった前提を説明せずに、お薬を減らせば良いという伝え方をしたため、どういった意味でお薬を減らすのかという認識が患者さんと共有できていませんでした。結果としてそれが患者さんに医療不信を与えてしまったという苦い経験となりました。
後藤:患者さんに納得してもらうためには、「今薬の処方が多すぎるのはなぜか」ということや「多すぎる薬を減らすことが健康を守るためにいかに大切か」という情報をあらかじめ理解してもらうコミュニケーションも必要だということですね。
安井:まさにそういったプロセスが不足していたと思います。一つ一つのプロセスが患者さんにとって情報です。そういった部分の情報共有も大事だと思います。
後藤:先生が先ほどおっしゃった医療スタッフ内部での情報共有の大切さについて、お聞かせ下さい。職種ごとに、使う言葉や思いに違いがあったりするのでしょうか?同じ患者さんを皆で診ていても、医師と看護師、看護師と薬剤師、薬剤師とケアマネージャーとでは感じるものや共有している情報が違うといった現状があるのでしょうか?
安井:まず職種ごとに使う言葉が違うということはあります。また持っている情報の性質も違います。理学療法士が持っている患者さんのご自宅での情報、看護師が持っている患者さんが困っていることの情報、医師が持っている臨床検査値の異常も含めた医学的情報、というように職種によってそれぞれ違う情報を持っています。もちろん皆が患者さんに元気に退院してもらいたいという思いを持っています。ところが高齢者の場合、必ずしも元気に退院できるとは限りません。そういった場合はある程度自宅で生活しながら通院治療ができるような段階を目指します。それにはその段階に向けてそれぞれの職種が情報を共有することにより「ここを重視しよう」「現時点でここは保留にしておこう」という方針を決めていくことが重要になります。