健康ライブラリー

健康ライブラリー 2022年2月6日

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●教えてドクター 
★2月のテーマ「地域医療の現状と課題」(1)

北海道 美幌町立 国民健康保険病院 副院長
安井浩樹 先生

聞き手:CBC論説室 後藤 克幸


後藤:安井先生は現在、北海道の病院でご活躍ですが、「健康ライブラリー」が2013年に始まった当初は、名古屋大学の地域医療教育学講座の准教授でいらっしゃいました。先生のミッションの一つでもあった「地域社会への情報発信」という観点から、この番組にも関与してくださり、さまざまなご指導をいただきました。地域医療の現状を社会にわかりやすい言葉で発信するという意味では、先生にとって、この放送との連携は、どのような意味があったのでしょうか?

安井:ラジオでの発信を後藤さん方と始めた当初は、医療事故の問題があったり地域医療崩壊の問題があったりと、様々な問題が現場で起きていた時期だと思います。その中で情報を共有するという重要性を非常に感じておりました。何か情報を共有する手段はないだろうか?特に医療者と患者さん、医療者と患者さんのご家族、医療者と社会とが情報を共有する手段はないものか?という思いから「ラジオ番組ができないでしょうか?」とご相談した覚えがあります。

後藤:現在の日本が抱えている地域医療の一番大きな課題は何だと思われますか?

安井:超高齢社会における日本が抱える地域医療の課題については非常に盛んに論ぜられていますが、少し視点を変えて私が現在地域医療を行っている美幌町を例にお話ししてみたいと思います。特殊な例だと思われるかもしれませんが、いずれは名古屋も含めて多くの地域がたどる道のりだと思っています。この5年間で美幌町の人口は2万人から約1万8千人へと7%位の減少がありました。そして高齢化率は34%~36%位まで増加しています。これは日本の高齢化率より高い数字です。私は入院患者さんも診察していますが、高齢者(65歳以上)の割合は78%から83%へと増加していますし、後期高齢者は54%から66%へと増加しています。数字だけ見ますと「高齢者が増えたんだな」「高齢化が進んだんだな」ということになりますが、実際どんなことが起きているかをお話します。例えば名古屋大学勤務時に学生さんと「認知症のおじいさんやおばあさんが家で生活するためには皆でどういった協力をしたらいいでしょうか?」といったテーマでディスカッションをした覚えがあります。「ケアマネージャーさんを中心に介護保険を使って色々なケアプランを作り、多職種連携のディスカッションもしてさらに良いケアプランを作りましょう。家に帰って楽しく生活できるように考えましょう。」というような話し合いをする授業や実習を行っていました。しかしいざそれを現場で実践しようとすると、5年前にはできたと思うのですが、現在ではそのようなケアプランを作っても、ヘルパーさんがいない、訪問看護師さんが足りない、そこまで調整してくれるケアマネージャーさんがいないといった事例が多く出ています。さらにそのようなケアプランを進めようにも、家族がいなかったり、家族がいても認知症であったり、遠方で暮らしていたりといったような問題で、進められない現状があります。それらの問題がこの5年間に急激に進行しています。

後藤:ヘルパーさんや訪問看護師さん、ケアマネージャーさんなどのスタッフが足りないのはなぜでしょうか?

安井:難しい問題ですね。待遇の問題もあると思いますが、こういった仕事に就いて、人助けをしようとか社会のために働こうという志向を持った人が減ってきていることも考えられます。もちろん高齢化も原因の一つではあります。
いくら良いケアプランを作り、良いケアを提供しようとしても、人が足りないというのは深刻な問題です。高齢化に加えて少子化も要因となり、医療資源・人材資源が足りないという現実がわずか数年でつきつけられています。医療の現場はどんどん大変になってきていてそれがさらに人手不足に拍車をかけています。

後藤:実際の医療現場で、そのような課題について先生が強く感じられたエピソードなどはありますか?

安井:例えば、ある独居の肺がんの終末期の患者さんがいらっしゃいました。長い間連絡をとっていない息子さんが遠方にいて、「もう、おばあさんが危険な状態です。様子を見に来てください。」と伝えたのですが、様々な理由で来られませんでした。また、その患者さんは犬を飼っていて、最期にどうしても会いたいとおっしゃったので、スタッフで協力し病院の玄関先で犬に挨拶できるようにした思い出があります。そして亡くなった後はお住まいの町で火葬を行うことになりました。寂しいですがこれはめずらしいケースではありません。もっと寂しいケースでは独居の方で孤独死をして死後に発見されるということもあります。それがこの5年間であきらかに増えてきています。名古屋の方でもこういったケースが増えてくると思います。

後藤:安井先生が、北海道で今、体験されている超高齢社会の現実は、東京・名古屋・大阪などの都市圏でも、近い将来、同じようなことが起きる恐れを感じていらっしゃるということですね。

安井:全くその通りです。超高齢化社会の問題について2025年問題などと言われていますが、日本の多くの地方ではすで起こっている問題だと思います。そこで現状として何が起こっているかということを検討し、今から対策を立てていく必要があると思います。
 
 

 
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