●教えてドクター |
名古屋大学医学部附属病院 地域医療教育学講座 准教授
岡崎研太郎 先生
12年ほど前から『糖尿病劇場』という名前で、演劇によってよくある糖尿病診療の風景を描き出し、それを医療者間で共有したり、または市民公開講座で患者さんやご家族や住民の方々にご覧いただいたりして、糖尿病について考えてみるという試みを続けています。患者さんが診察室の中で過ごす時間はとても短く、毎月1回10分間いらしたとしても、1年間で120分位にしかなりません。栄養士さんと栄養相談をしたとしてもそこに60分~120分位が加わる程度です。患者さんは生活のほとんどの時間を医療機関ではない場所で過ごしていらっしゃいます。そういった普段の生活の場での行動が糖尿病の調子が上手くいくかいかないかに大きく影響しますので、そうした医療機関以外での過ごし方について一緒に考えていきましょうというところから『糖尿病劇場』が始まりました。『糖尿病劇場』は主に医療者を対象とした研修会などで行っていますが、医師だけではなく看護師さん、栄養士さん、検査技師さん、薬剤師さん、健康運動指導士さん、時には受付のクラークさんなど様々な職種の方が参加して下さっているのも特徴です。『糖尿病劇場』は演劇のプロが行っているわけではなく、演劇に関しては素人の医療者がシナリオを書き、小道具を作り、演じます。そして完成した劇を観て下さった医療者の方や患者さんやそのご家族と一緒にディスカッションをして考えます。『糖尿病劇場』の中には誰も悪い人はでてきません。医療者は皆治療に一生懸命ですし、患者さんやご家族も一生懸命、糖尿病を何とかしようと思っています。それなのになぜかすれ違いが起こって上手くいかなくなってしまいます。そういったよくあるケースを医療者の実体験に基づきシナリオにして演じています。『糖尿病劇場』を通じて、「患者さんやご家族が一生懸命取り組まれていることは、私達医療者もよくわかっていますよ」というメッセージを伝えたいと思います。そして私達医療者も、「こうしたら良いのではないでしょうか」ということを患者さんに上手く伝えるきっかけにできればと思います。これまでの参加者へのインタビューやアンケートの結果から、『糖尿病劇場』に参加すると、「自分の患者さんとの関わりを振り返るようになる」、「医療者が患者さんやご家族の思いを想像できるようになる」、「医師だけあるいは看護師だけで取り組むのではなく、他の医療職と連携してのチーム医療の大切さに気が付くようになる。」というような効果があることがわかってきています。現在、皆様に『糖尿病劇場』についての情報をお伝えするためSNSのTwitter(ツイッター)で『糖尿病劇場』という名前で情報発信をしています。今後、次回の公演予定や参加者の募集をこのアカウントを通じて行っていこうと思っています。