健康ライブラリー

健康ライブラリー 2021年5月30日

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●教えてドクター 
★5月のテーマ「身近に直面する脳神経の病気」

名古屋大学医学部付属病院 神経内科 教授
勝野雅央 先生

現在、認知症については症状が出てきたときには、脳の変化がかなり進んでいるということがわかってきています。私たちはパーキンソン病やレビー小体型認知症という病気に対して、患者さんが病気に気付く前に診断し、予防的に治療ができないか?という研究のプロジェクトを今進めています。レビー小体型認知症には前触れ症状というものがあることが知られています。前触れ症状とは、夜間に大きな声を出したり、嗅覚が低下したり、便秘を起こしたりといった症状です。こういった症状の場合、それだけで患者さんが気づいて病院にいらっしゃるということは非常に少ないと思います。そこで私達は健康診断を受けておられる受診者の方々、特に脳の病気を自覚されていない方々に、「夜中に大きな声を出しませんか?」とか、「最近匂いがわからなくなっていませんか?」というようなアンケートをとって、前触れ症状をお持ちでないか?ということを調査してます。名古屋市のだいどうクリニック、岐阜県高山市の久美愛厚生病院、静岡県掛川市の中東遠総合医療センターなどの健診の施設と連携し、人間ドックの受診にいらっしゃった方々にアンケートをとっています。これまでに6,000人位の方にアンケートに答えていただき、その結果を分析致しました。健康診断を受診された、50歳以上の方にしぼってみたところ、7%の方で前触れ症状(睡眠時の異常、嗅覚の異常、便秘)が2つ、もしくは3つみられるということがわかりました。私たちはこの7%の方に再度お声がけをして、同意を得られた場合には画像の検査をさせていただいています。これは脳のドーパミン神経や心臓の交感神経を診る検査です。こういった検査をした結果、先ほど申し上げたアンケートで前触れ症状があった方の中で、1/3の方に異常があるということがわかりました。ですのでご本人には全く自覚症状が無く、そして私達が診察してもなお異常が見つからなくても、アンケートで異常がある場合は非常に高い確率で、レビー小体型認知症やパーキンソン病の進行が画像上では、すでに始まっていることを確認できることがわかりました。私たちはアンケートでも異常があり、かつ画像でも異常がある方に対して病気を予防するための臨床試験を今、行っています。こういったアプローチが今後脳神経内科の多くの領域で重要になってくるのではないかと考えています。
 
医療コラム ワクチン接種と感染拡大の競争
論説室 後藤 克幸

現在、高齢者への新型コロナワクチンの接種が進められています。感染対策の切り札として期待されているワクチンの接種ですが、新たな課題も浮かんできています。

キーワードは二つあります。一つはワクチンの無駄を出さないということです。もう一つは感染拡大との競争です。

一つ目のワクチンの無駄を出さないということについてですが、医療従事者に対する接種はこれまで病院の中で整然とおこなわれてきて、周りが医療専門職の方ですので無駄をだすこともほとんどありませんでした。ところが高齢者への接種が始まりますと、施設に入所している方、在宅介護を受けている方、一人暮らしのお年寄り、老々介護で夫婦二人で暮らしている方など、生活の状況が多様です。集団接種の会場へ歩いて来られる人、来られない人、家族が連れてこられる人、そうでない人、など本当に様々です。高齢者へのワクチン接種の場合、予約をしても当日突然体調が悪くなりキャンセルするという事例が多くなる恐れがあります。このキャンセルワクチンの無駄をいかに少なくするかが課題となりそうです。どうしたらいいのでしょうか?この課題に対しては行政と地域の開業医の人達との連携がとても重要だと思います。地域の在宅医療クリニックの先生方やかかりつけ医の先生方は日頃から診察しているお年寄りの健康状況をよく把握していらっしゃいます。ワクチン接種を希望している高齢者の予約待ちリストを是非事前に準備していただければと思います。そして行政と地域の開業医や介護施設などの人達とで緊密で速やかな連絡をとりつつ、臨機応変に対応し、1人でも多くの高齢者にできるだけ早く接種できる体制を日頃から構築していくことが重要です。

もう一つのキーワードである感染拡大との競争ですが、今心配されているのが変異ウイルスによる感染拡大が爆発的に広がっているということです。今後、医療従事者の多くが治療に集中しなければならない状況になります。そうしますと高齢者へのワクチン接種に遅れがでることも考えられます。例えば大学病院の医療がひっ迫しますと、医療従事者の不足が益々顕著になってきます。ワクチンの安定供給についても政府に全力で取り組んで欲しいと思います。ワクチンの普及が早いか、感染拡大のペースが速いか、まさに競争です。
 
 

 
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