●教えてドクター |
名古屋大学医学部附属病院 老年内科
鈴木裕介 先生
ここ数十年で、認知症の研究は格段の進歩を遂げております。認知症の病態の本丸と言えるところまで迫っているような研究成果があります。それについてまず確認としてお話致します。「認知症」と診断された場合、おそらく半分から2/3位はアルツハイマー病が原因です。ですので、私が本日認知症についてお話しすることはアルツハイマー病を前提とさせていただきます。アルツハイマー病の発生原因として今のところ中心的な仮説としてはアミロイド仮説というものがあります。アミロイドというのは、脳内に溜まるタンパク質です。通常、健康な人でもアミロイドが脳の中に溜まります。それがアルツハイマー病の方においてはアミロイドベータというタンパクが重なり合い、それが脳から溶け出さないようになって、どんどん溜まっていってしまいます。それがおそらくアルツハイマー病の初期の変化で、それがだんだん溜まってくると次にタウタンパクという別のタンパクが神経の細胞の中に溜まり始めます。それが一定量溜まってくると結果的にそれが神経細胞を死滅させてしまいます。最初にアミロイドベータというタンパクが溜まり始めて、その後でタウタンパクが溜まり、最後にそれで神経の細胞が死んでどんどん神経が萎縮して小さくなってしまうのです。我々が患者さんを診ていて、物忘れがおきたり、今まで出来ていたことができなくなったりといった、生活において不便が出てくることで認知症の症状が現れます。ところが注目すべき点は、アミロイドベータというものが脳の中に溜まり始めるのは、そういう症状が確認できる約15年から25年位前からだということです。アミロイドベータが溜まり始めた時に本人と接しても全く異常は感じられません。普通の人と変わらないように会話もできるし生活の機能も保たれています。アルツハイマー病の最初の発生から症状が現れるまでの流れで、私たちが診ているのは最後の段階です。認知症に対する現状の情報として、日本では2000年に初めて認知症に対する薬が認可されました。それらの薬は物忘れの症状が現れてから、その進行を少しでも遅らせるための薬です。アミロイドベータが脳に溜まることが認知症の原因であるという仮説に基づけば、アミロイドベータが溜まらないようにし、次の段階としてタウタンパクが溜まらないようにするという先制攻撃が必要です。そういった薬ができないだろうか?ということがここ10年位考えられています。認知症の予防も薬によって行うことができる可能性が見えてきています。