●教えてドクター |
愛知医科大学 名誉教授 / 伏見・長東伝クリニック 院長
小林章雄 先生
不調の背景要因についてお話する前に、2つほど注意していただきたいことがあります。1つ目は、不調をメンタル面の不調だと思い込んでいても、実は体の病気が奥に隠れていることもあるということです。例えばがんの進行や、糖尿病や心臓病等の色々な慢性疾患や感染症等がメンタル面の不調を引き起こしている可能性もあります。まずメンタル面の不調であると決めつける前に、体の異常についても併せて考えることが必要です。2つ目は、「メンタル不調になったからには、何か原因が必ずあるはずだ。それは何だろう?何が悪かったんだろう?それさえ見つけ出してそれに対処すれば良くなるはずだ。」というように考えることが多いのですが、必ずしも原因は単純なものではないということです。全く原因に思い当たるものが無かったとしてもメンタル不調になるケースはあります。色々な要因が合わさってメンタル不調になることはよくあることです。例えば仕事でかなりストレスがたまって調子が悪い状態が続いているところに、ご両親のどちらかが病気になってケアしなくてはいけなくなったり、子どもさんが不登校になったり、親族との遺産をめぐる金銭トラブルに巻き込まれたり、などといったような事態が突然発生すると、そこで引き金を引かれたようにメンタル不調になることはよくあります。このように複合的な要因がありますので、単純にこれが原因だと決めつけない方が良いです。ストレスの要因を大きく考えてみますと、一つは心理的負担が大きいことが自分に降りかかってきた場合です。人生の中の重要な出来事に対してかかるストレスについて、ホームズとレイが、「人生の出来事にどのくらいストレスがあるか」という得点を表にしたものがあります。その表の中で一番ストレスが高く100点言われているのが配偶者の死です。また離婚は73点、解雇や失業は47点、退職は45点と表され大きな人生の出来事がストレスとなっていることがわかります。そういったことだけでなく、仕事の面で言いますと、仕事の量が多すぎるとか、仕事の質が難しすぎるとか、仕事の責任が急に重くなった等の心理的負担が大きすぎるという要因があげられます。例えば納期が迫る中でたくさんの難しい仕事に長時間従事しなければならないような場合が該当すると考えられます。