●教えてドクター |
名古屋大学大学院 医学系研究科 ウイルス学 教授
木村 宏 先生
予防接種の歴史は18世紀末の1796年にイギリスの家庭医であるエドワードジェンナーが、天然痘の予防のために牛痘という牛の天然痘を8歳の少年に接種したのが始まりです。ジェンナーは天然痘という致命率の高い恐ろしい病気を予防したいと考えていました。そしてたまたま牛の乳搾りをする農民たちが軽い牛の天然痘にかかると人の天然痘にはかからないというということを観察し、この方法を子どもに試したのです。その後19世紀にフランスのルイパスツールという人が狂犬病のワクチンを開発しました。狂犬病も致命率が100%という非常に恐ろしい病気です。パスツールは狂犬病のウイルスを弱毒化して、狂犬に噛まれた子どもに接種して狂犬病の発症を予防しました。予防接種にはジェンナーにあやかってワクチンという名前がつけられています。ワクチン(vaccine)のワッカというのは牛という意味です。現在、非常に多くのワクチンが開発されてたくさんの病気が予防できるようになりました。中でも種痘という天然痘を予防するワクチンは画期的で全世界に普及し20世紀末には天然痘を撲滅することができました。それくらい意義深いものです。多くのワクチンが開発されたことにより、天然痘や結核など非常に恐ろしい病気から、インフルエンザのような馴染みの深い病気まで予防できるようになりました。また単なる感染症だけではなく、がんを予防するワクチンもできています。例えば肝臓のがんを予防するB型肝炎ワクチンや子宮頸がんを予防するパピローマウイルスワクチンなどがあります。現在ではワクチンが開発されたことにより、ワクチンを受けることによって重大な病気にかからないように予防ができますし、あるいはかかっても重症化しないようにすることができます。また、がんなどの病気も予防することができるようになりました。