健康ライブラリー

健康ライブラリー 2020年9月27日

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●教えてドクター 
★9月のテーマ「予防接種の正しい知識」

名古屋大学大学院 医学系研究科 ウイルス学 教授
木村 宏 先生

全く副反応の無い予防接種というものは存在しません。ただし副反応を恐れるあまり予防接種を避けて自然にまかせるというのは大きな誤りだと思います。多くのワクチンの開発・普及によって多くの感染症がコントロールできるようになって、入院する小児が激減しましたし、命を落とす小児や後遺症を残す小児も目に見えて減りました。そういった意味では予防接種には絶大な効果があります。予防接種で避けられる病気は予防するのが基本だと思います。パピローマウイルスワクチンというのは子宮頸がんを予防する極めて効果の高いワクチンです。我が国では毎年7,000人が子宮頸がんと診断され、2,500人が死亡すると言われています。このワクチンは2009年から定期接種化されたのですが、先ほどお話ししました副作用の懸念から2013年から厚生労働省より「積極的にはすすめない」という方針がだされ接種率が激減してしまいました。日本小児科学会や日本産婦人科学会など15以上の団体が以下の理由によりパピローマウイルスワクチンの接種をすすめるということにしております。一つ目の理由はこのワクチンの効果が非常に高いということ、二つ目は報道等で問題となった複合性局所疼痛症候群などの副作用はワクチン非接種者でも同様の頻度でみとめられることです。三つ目はこれらの副反応が仮におこったとしても、診療・相談体制が整備されて健康被害の救済が行われる等、発生時の十分な対応ができるようになったということです。私自身は接種をためらう方々およびその保護者の方々に対して、確かに副反応の心配はあるかもしれませんが、「このワクチンは10年、20年後の子宮頸がんの発症を予防できる」というように将来のことを考えていただきたいとお伝えしています。特に現在日本以外の諸外国がこのワクチンを取り入れて子宮頸がんの患者が徐々に減ってきていると言われています。一方で我が国の女性がこのガンの予防の恩恵を受けられない状況にあるということを理解していただければと思います。
 
医療コラム ワクチン開発…急ぎすぎに懸念の声
論説室 後藤 克幸

新型コロナ感染症に予防効果を発揮する新しいワクチンの開発に世界の期待が高まっています。現在、世界で開発中の新型コロナワクチンの候補は200種類以上あり、そのうちの20種類あまりが、実際の患者が参加する臨床試験の段階に進んでいると伝えられています。

臨床試験とは、人を対象にした薬の有効性と安全性を調べる研究のことです。これは三つの段階に分かれていて、第一段階は、健康な人を対象に行われるもので、有害な事象が起きないことを確かめることなどが主な目的です。第二段階は、実際の患者さんに参加協力してもらい、薬の適切な使用量などを確認するものです。そして第三段階は、さらに多くの患者さんの集団に参加協力を得て、この薬を使った場合と使わなかった場合を比較して、有効性と安全性を科学的に証明する情報を集めるものです。こうした三つの段階を経て、ワクチンが完成するまでには、通常10年近くかかると言われています。

新型コロナの感染拡大が広がる中、ワクチン実用化をめざす各研究機関や製薬メーカーの競争が激しさを増しています。各国の政府は、ワクチン開発を国民の支持を集めるための政策の目玉にしようと、開発支援に前のめりです。政治的な約束を強調する指導者もでてきています。例えばアメリカのトランプ大統領は、今年中にワクチンの接種を可能にすると何度も発言していますが、専門家からは疑問の声も上がっています。

今、開発が最も早い段階に進んできているのは、イギリスのオックスフォード大学と製薬会社アストラゼネカの共同研究グループによるワクチン開発だといわれています。そして、このワクチンの研究には、日本政府も、日本人に接種した場合の有効性と安全性を評価する臨床試験を日本国内でも行うことを表明し、ワクチンが完成した際には、アストラゼネカ社からワクチン1億2千万回分の供給を受ける約束を交わしています。

しかし、急ぎすぎには、懸念の声をあげる専門家もいます。各製薬会社が開発スピードを競い合う中で、各社がすすめている臨床試験のデータについて、本当に透明性のある情報公開がなされているか?という懸念です。充分な患者数に立脚した科学的に適正なデータがそろっているのか?そのデータによって、ほんとうに有効で安全なワクチンであることが証明できたのか?有効性と安全性をどのようなデータに基づいて確認をしたのか?など、正しく評価ができる情報の公開が必須です。
 
 

 
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