●教えてドクター |
愛知医科大学 耳鼻咽喉科 教授
藤本保志 先生
嚥下障害の予防のお話と、嚥下機能が衰えてからのお話を分けてお伝えします。まず予防の段階では、実は歯磨きとうがいが重要になります。口の中の細菌が睡眠中にノドから気管・肺に入って、夜中に肺炎になるのが多いことがわかっています。歯科の先生が主に関わって下さいますが、口の中は清潔な方が良いです。また食べ続けるということも大切です。胃や呼吸器等の他の病気で、食べられなくなったり寝たきりになったりした時に、できるだけ早い時期に口やノドを使うことが大切です。嚥下に関わる筋肉が衰えると、その後のリカバリーに随分時間がかかってしまいます。他にも高齢の方の問題点として1人でご飯を食べるということがあります。自然とテレビを観ながらの食事が多くなるからです。気持ちがテレビの方に向いていると飲み込むことがおろそかになって良くないのです。しっかりお茶碗の中を見て、ご飯を食べるつもりで食べないと誤嚥が増えるので注意するポイントです。そして嚥下機能が衰えた場合に、その回復を目指す段階では食物を調整するという方法があります。また、嚥下調整食といいますが、食べやすい形態の物にしたり、反射が鈍ってきた場合にとろみをつけた物にしたりするだけでむせにくくなります。そういった工夫をして安全に食べ続けることが大切です。食べ続けるだけでもトレーニングになるのですが、その一歩手前では口やノドの筋肉のトレーニングも重要になります。嚥下機能が落ちてしまった場合に栄養の付加も重要ですが、回復させたり維持させたりするための、口、ノド、くびの筋肉トレーニングも重要です。さほど難しいものではありません。ポイントは舌をよく動かすことと、喉頭を持ち上げることをどのように促すかの2つです。舌を出したり左右に動かしたりする運動だけでも効果があります。発声練習をすることも良いかもしれません。ノドについて申し上げますと、喉仏と顎の骨をつなぐ筋肉を意識した運動をします。ラグビー部の人は脳震盪を起こさないように首を鍛えますが、それをずっと軽くした運動です。顎の下に親指を添えて、これに逆らうように顎を引いてみる運動があります。または、おでこに手を当てて、あるいは手を当ててもらって、うなずくような運動もあります。ただ顎の下に親指を添えるのが分かりにくい方もいらっしゃいます。そこで私の友人が教えてくれた方法は、ペットボトルやゴムまりを顎にはさんで、これを潰してもらう方法です。そうしますとペコペコ音がするのでよくわかるようです。それから専門医の診断を受けることもとても大切です。在宅介護の現場では言語聴覚士の方々が力になってくれます。もちろんそこで困った場合には耳鼻咽喉科などに来ていただければ、きちんと相談にのりたいと思います。