★3月のテーマ「在宅医療と栄養管理」
総合在宅医療クリニック 管理栄養士
安田和代 先生
地域の社会資源をもっと食に活用できないかなと考えております。例えば飲み込みが難しい嚥下障害の方が家族にいて、「皆でご飯を食べに行きたい、外食したいけど、おじいちゃんだけ食べる物がない。」とか「食べる事を楽しみに旅行に行きたいけれど、行っても食べられない。」という問題が起こります。外で食事をするときにもっと食形態を選ぶことができたら、出掛ける楽しみや食べる喜びが増えるのではないかと思います。「食のバリアフリー」という言葉を使っておりますが、食の選択肢がもっと増えると良いと思います。それを実現するため地域の社会資源を活用させていただけたらと思います。今までの例ですと、和菓子屋さんにお願いして飲み込みやすい和菓子を、実際に作っていただくことをしました。和菓子というと一見柔らかくて誰にでも食べられそうですが、結構飲み込みが難しいものだったりします。和菓子屋さんに具体的に、「こういう物を作って欲しい」とお伝えすることにより、和菓子屋さんは、「こういう物を作れば、こういう方にもお召し上がりいただけるんだな。」ということをご理解いただけます。またそういった和菓子ができれば、飲み込みが難しい方でも美味しいものを召し上がって頂くことができます。他には外食産業である丸亀製麺さんにお願いして、実際患者さんのお宅に出張して頂いて、そこでおうどんを作っていただき、丸亀さんの味を患者さんに提供していただくという企画も考えました。企業の方や職人さんはプロとして確かな技を持っていらっしゃるので、こちらのニーズをお伝えすることにより、その技によって応えていただけます。もっともっと幅が広がっていくと思います。そして食べる楽しみをさらに多くの方に感じて頂くことができると思います。
大下浩平 さん（丸亀製麺 株式会社トリドールホールディングス）
★力を入れて取り組んでいる事
私は丸亀製麺という店舗を運営しているトリドールホールディングスで、ＣＳＲ推進室という部門を担当しています。昨今、環境問題や貧困問題や高齢化社会の問題といった大きな社会課題がある中で、「企業と社会の持続的な発展をどのように達成するのか？」ということに関して企画し実践をしています。私は「世の中にどのような問題があって、それに対して企業がどのようなやり方で解決を目指しているのか？」をＰＲすることがとても大切だと思います。ＰＲすることで消費者の皆様がそういった問題を自分事として捉え、行動する可能性が高まると思います。
★心に残ったエピソード
ある日会社の問い合せ窓口にメールが届きました。がん闘病中のお父様をお持ちの娘さんからのメールでした。がりがりに痩せてしまった高齢のお父様と、そのお父様ともう一度旅行に行きたいというお母様がいらっしゃるとのこと。そして娘さんの気持ちとしては、お父様が毎日のように食べたいと言っている丸亀製麺のうどんを病院へ届けたい。という内容のメールでした。実際に病院へ出来立てのおうどんを届けられた時の感動は忘れられません。お父様に丸亀製麺のうどんを届けたいというメールの少し前に、終末期の医療に携わっていらっしゃるクリニックの方から、同じようなメールが届いたことがありました。その時はどうしても社内の調整に時間がかかってしまい、結果的には提供することができず大変悔しい思いをしました。その後クリニックの方からお電話を頂戴し、「患者様は食べられるという希望を持っていらっしゃいましたよ。」というお言葉をいただきました。このクリニックの方の一言で、「少しでもお役に立てた。」と思うことができ、気持ちが救われました。またこのクリニック様からは大変貴重なことを勉強させていただきました。「食べるということは、単なる栄養補給ではなくて、ご本人にとっては喜びであり、ご家族にとっては日々辛い顔をされている患者さんの喜びの顔を見る機会であり、物を食べることで絆を感じる時なんですよ。」ということを教えていただきました。そこで私達は仕事に対し何か新しい誇りのようなものを感じ、それが冒頭の娘さんからのメールを受け取った際の対応につながったのだと思います。今でもそのクリニック様には感謝しています。
★今後の課題
私達外食産業というビジネスはお客様商売ですから、そこを選んで働いている仲間は根底に「人に喜んでいただきたい。」という思いが強くあると思います。ですから社会課題の解決ということについては得意な方が多いです。外食産業全体が、社会課題の解決に取り組めるような盛り上がりをつくることができればいいなと考えております。
